混乱する除染現場、放射性物質汚染地域に募るむなしさと不安

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放射線防護学の専門家からは、「屋根は洗浄するだけでは根本的な解決にならず、取り替えることが必要だ」と、除染方法の問題点を指摘された。しかし、屋根の葺き替えだけで見積もりは300万円。園児の減少で、経営はすでに赤字に陥っており、渡利地区のみでの保育継続を断念せざるをえなかった。西地区に新しい施設を確保したものの、給食用の設備を持ち込むことができず、園児が弁当を持参する週3日のみ西地区で保育を行う。

今年1月、放射性物質汚染対処特別措置法が施行され、東北、関東の8県102市町村が、国の費用で除染を行う「汚染状況重点調査地域」に指定された。一歩前進したかに見えるが、実際の除染作業への取り組みには課題が多い。

渡利地区も優先的除染区域に指定され、すでに昨年10月には、地区住民向けの説明会が開催された。だが、除去した表土の仮置き場が決まらないなどの理由から、作業日程は空白のままだ。

門真園長は、「行政に放置され続けていることで、この地域自体が疲弊し切っている」と苦悩の表情を浮かべる。遊び盛りの子どもたちが高線量地域に入らないよう行動範囲の制限を加えることで、「伸び伸びした保育ができない」という葛藤も強い。子どもたちも、震災以降、落ち着きがなくなるなど、行動に変化が見られるという。

4カ月の除染作業でも3分の2は手付かず

除染現場からは、「市町村レベルでは効率のよい除染作業はできない」という声も上がる。汚染状況重点調査地域の除染に当たっては、政府は、作業は各自治体に任せ、交付金だけ配布する方針だが、この方法に早々とほころびが生じている。

昨年5月から9カ月にわたって除染作業に携わった郡山市薫小学校の森山道明校長も、今のスキームに矛盾を感じる一人だ。

郡山市では、原発事故以降、空間線量が毎時1マイクロシーベルト以上観測され続けた。薫小学校では学区内に高線量地域を抱えていたためほかの教育施設に先駆けて除染を実践し、市のモデルケースにもなっている。しかし、次々に起こる課題に、現場は頭を抱えている。

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