ノーベル賞学者を支えた「浜ホト」の技術力  超微弱な光を検出する光電子増倍管とは?

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スーパーカミオカンデの内部

数カ月にわたる原因究明によって、事故の4カ月前に実施した初のメンテナンスで、1本の増倍管が作業時のストレスによって爆縮、その衝撃波が水中を伝わり連鎖破壊したと結論付けられた。

袴田さんらは再度、工場と生産設備を整備、事故から約4年を経て6114本の増倍管を再納入、現在は順調に稼働しているという。

ハイパーカミオカンデには9万9000本

こちらが光電子増倍管

今、時代は「スーパー」から「ハイパー」へ移ろうとしている。次世代のハイパーカミオカンデは100万トン級の純水タンクに、9万9000本の増倍管を取り付け、2025年に実験を開始する計画だ。

増倍管の感度は従来よりも50%高めることが求められ、2種類のタイプが候補に上がっている。一つはダイノードを半導体に置き換える新しいタイプ、もう一つは従来の改良型。袴田さんによると、前者は戸塚さんが生前に提案したタイプだという。従来より精度は2倍に増すが、不確実性もあるため「保険として」従来型も改良を進めている。

「もちろん戸塚さんの思いは実現したい。ただ、まだ完全に予算が付いているプロジェクトでもないので、慎重に検討されていってほしい」と袴田さん。まさに宇宙に飛び出すような、高みを目指す挑戦。それが浜松という地方で続く意味を、最後にこう分析した。

「こうした技術的なチャレンジが、既存の製品開発や人材育成にも生かされる。その逆もあり、相互にメリットがある。ただ、基本はお客さんが要求したものにいかにこたえるか。どんなに無理難題でも、『やらまいか』と挑戦してみる気風が、この浜松のモノづくりにはあるのでしょう」

関口 威人 ジャーナリスト

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せきぐち たけと / Taketo Sekiguchi

中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で環境、防災、科学技術などの諸問題を追い掛けるジャーナリスト。1973年横浜市生まれ、早稲田大学大学院理工学研究科修了。

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