スマートグリッドの経済学--金融政策、財政政策に代わる第3の経済政策を

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スマートグリッドの経済学--金融政策、財政政策に代わる第3の経済政策を

加藤敏春 スマートプロジェクト代表

東日本大震災・福島第一原発事故後の日本再生を図ろうとしている今、日本経済はリーマンショック後の巨大危機を経て、ユーロ危機に端を発する景気の低迷に見舞われようとしている。しかも、1990年代のバブル破裂以降「失われた20年」と呼ばれる長い停滞のトンネルから抜け出せないでおり、その様相は非常に複雑である。

日本経済の長期停滞を克服するための真の処方箋が必要!

危機の本質は、日本経済が慢性的な「流動性のワナ」に陥ってしまったことにある。慢性的な「流動性のワナ」とは、実質金利が低下してゼロ水準近くになると債券保有から得られる利息がほぼゼロとなるので、人々は資産を債券ではなく流動性の高い貨幣で保有しようとする、そのため貨幣が無尽蔵に需要を吸収することになり(「マネーによる需要の飽和」)、投資や消費が盛り上がらない状態が長期間継続することである。
 
 これに対して伝統的な経済学では、「実質利子率=名目利子率−物価上昇率+リスクプレミアム」という関係下で、物価上昇率がデフレによりマイナスとなり、さらに銀行がリスクプレミアム(リスクのある案件に投融資する場合に、リスク分に応じて要求する上乗せ利益)を要求している状況下では実質利子率が高止まりして、投資や消費におカネが回らなくなると説明する。
 
 企業(家計)にはいくらでも投資(消費)需要があるのに、民間銀行が低金利の資金を貸してくれないために不況が続いているという解釈である。日本をはじめ各国の中央銀行が採用している「非伝統的金融政策」も、基本的にはこのような解釈に基づいている。

しかし、需要はあるのに供給が足りないというのが事実なら、企業が銀行の前で列をなして新規融資の企画書を持って並んだり、消費者が旅行代理店の前で海外豪華クルーズの申し込みをしようと列をつくっているはずである。だがこれは実情とは程遠い。

実際に日本経済が陥っているのは、長期にわたり有利な投資(消費)機会がなく企業(家計)の資金需要が一向に盛り上がらないという今までにない状態であり、投資(消費)をしようとしない企業(家計)が「マネーによる需要の飽和」を脱して、いかに投資(消費)を活発化させるかが問われている。
 
 この点、最近の大学教授、エコノミストなどの論調の中には「非伝統的金融政策」の深掘りを主張するものが多いが、問題の本質をつかまえていないので、議論は空回りするばかりである。

金融政策や財政政策では効果はなく、必要なのは「イノベーション政策」

最終需要を構成する主たる項目には投資と消費があるが、このうち投資機会の拡大のためには、人々の「コンフィデンス(信頼)」を上昇させることが必要である。すなわち、米国の経済学者、フランク・ナイトの『リスク、不確実性および利潤』によると、社会全体の客観的なリターンではなく、個々の企業家が主観的にどのような利潤を得られると考えるか、がポイントとなる。

ナイトは、野心的な人はバイアスを持っているので、こうした人がマネーを使うかどうかで投資水準が決まる。仮に事後的に確定した利潤が小さくても事前にはわからないので(すなわち不確実性があるので)、投資という“賭け”に勝ったときの期待収益が高いほど投資の水準は上昇すると鋭く指摘した。

「リスク」は利潤の要因にはならないが、「不確実性」は利潤の要因となりうる。不確実な世界に挑戦することで初めて企業家は利潤が得られる、これらがナイトのいちばん重要な指摘である。

日本経済が陥っている慢性的な「流動性のワナ」は、最も不確実性が高まっている状態であるといえる。それゆえ、不確実性の下においても人々の「コンフィデンス」を高め、さらにケインズの言った「アニマルスピリット」にまで高揚させることが投資喚起のため必要となる。

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