指導者のカリスマ性はどこから生まれるのか--ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授

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人間のコミュニケーションの主要な部分を占めるのは、非言語的な要素だ。プリンストン大学の研究では、よく知らない選挙の候補者二人の画像を見せると、人々は10回のうち7回、勝者を予測できた。58回の選挙の10秒の無音映像を見せたハーバード大学の同様の研究では、被験者の予測が2大政党制の投票における変動の20%を説明し、変数として経済情勢よりも強力だった。皮肉なことに、こうした予測は音声も流すと的中率が落ちた。

08年の選挙の際、米国民は、イラク戦争と金融危機による幻滅を味わっていた。オバマ大統領は、話術巧みで将来への希望を掲げる魅力的で若い候補者だった。このことがオバマ大統領にカリスマ性があるとの評判が立った理由の一つであるのは明らかだ。

しかし、オバマ大統領のカリスマ性の一部は信奉者たちの目の中にある。人々は時にカリスマ性について「それを見たときにそれだとわかる」と言うが、私たちは鏡の中も見ているのだ。景気が悪化し、失業率が上昇し、オバマ大統領が複雑な政治的妥協に対処しなければならなくなると、この鏡は曇ってきた。

カリスマ性は、候補について何かを教えてくれるが、私たち自身について、国のムードについて、そして私たちが望む変化のタイプについても、多くのことを教えてくれる。経済的に困難な時期には、カリスマ性を維持するのは難しい。今年の米仏の各選挙は、オバマ大統領とサルコジ大統領のカリスマ性を試す、真のテストとなるだろう。

Joseph S.Nye,Jr.
1937年生まれ。64年、ハーバード大学大学院博士課程修了。政治学博士。カーター政権国務次官代理、クリントン政権国防次官補を歴任。ハーバード大学ケネディ行政大学院学長などを経て、現在同大学特別功労教授。『ソフト・パワー』など著書多数。

(週刊東洋経済2012年3月3日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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