「ドクター新幹線」が人の命を救う日が来る 新幹線は日本の地域医療を変えられるか

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新幹線が毎時数本ずつ定時運行することを考えると、特別に列車を仕立てる必要はない。各列車に専用スペースを4ボックス(2区画)ほど確保すればよい。そこにストレッチャーが搬入できるようにすればよいのである。

救急装備は病院側からの持ち込みでよいと思われるので、JRはスペースと電源を確保するだけである。その改造費はわずかなものであろう。

患者の重症度、緊急性に応じて、患者の付き添いは、看護師、救急隊員、医師と柔軟に対応すればよい。大都市の駅で救急車が待機していれば、病院への搬送はスムーズに実現する。いわば「ドクターヘリ」ならぬ「ドクター新幹線」である。

北海道では新幹線と高速道路が並走しない

この方策のメリットは、地域の救急自動車を患者搬送に使わないで、他の救急対応に振り向けられることである。交通事故のリスクも大幅に軽減できる。さらに現在、広まっているドクターヘリは、夜間は使えないのに対して、ドクター新幹線なら少なくとも、深夜、明け方の時間以外は救急搬送が可能になり、選択の幅がひろがるわけである。

これまで、新幹線を患者搬送に利用しなかったのは、考えてみれば、不思議な気がする。制度的に無理があるという議論もあるが、すでに航空機で患者搬送している事実を考えると、無意味な議論であろう。

本州の新幹線網では、高速道路網や一般道路網が充実していたこと、北海道のように人口密度が低くなく、病院も限られたところにのみ存在しているというような状況になかったことも、新幹線を患者搬送に利用しようという機運が高まらなかったことと関係があるかもしれない。短距離の患者搬送なら救急自動車で事足りるのは明らかである。

だが、北海道はこの状況が当てはまらない。札幌開業の際の長万部―新小樽間は、併走する高速道路が未整備であり、また、将来的にも整備される可能性がきわめて低い。つまり全国の新幹線網で、唯一といっていいかもしれない高速道路が併走しない新幹線なのである。

通常、救急自動車で高速道路を走れば、その方がはるかに速い、ドア・ツー・ドアの救急搬送が可能なわけであるが、この新幹線区間では、救急自動車が一般道を走るために、新幹線の速度優位性が断然重要になるのである。さらに、この区間は北海道でも有数の豪雪地帯であるため、新幹線の定時性が実に効果的となる。

北海道新幹線函館開業では、「ドクター新幹線」のメリットは見えにくいが、札幌開業の暁には、北海道島内で札幌、函館への救急搬送に有効な手段になると思われる。札幌開業までにぜひとも検討を終えて、実現していただきたいと願っている。

當瀬 規嗣 札幌医科大学教授

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とうせ のりつぐ

札幌医科大学医学部細胞生理学講座 教授(大学院細胞機能情報学)

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