災害弱者への新たな支援策、「訪問看護1人開業」が高齢者の孤立を防ぐ

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だが、今回の震災では被災した住民が数十万人に上るうえ、仮設住宅や借り上げ住宅が自治体を越えて各地に分散していることもあり、手が回っていないのが実態だ。そこで厚生労働省は仮設住宅などで総合相談やデイサービス(通所介護)、居宅サービス(ケアマネジメントや訪問介護、訪問看護)などを担当する「サポート拠点」の新設を被災地の自治体に働きかけている。それを踏まえて自治体では、社会福祉協議会などへの委託方式による、生活相談員や看護師などを配置した拠点開設が進められている。

厚労省によれば、岩手、宮城、福島の3県で103カ所のサポート拠点設置が予定されており、すでに87カ所が開設済みとなっている(2月1日現在)。ただ、仮設住宅の総数と比べても十分とは言いがたい。

そうした中で1人開業による訪問看護の活用も有力な方策だと思われる。だが、震災特例として設けられた1人開業が実現したのは、福島市のみ。これまでキャンナスに所属する看護師が中心になり、青森県八戸市や岩手県盛岡市、一関市、宮城県仙台市、気仙沼市、石巻市、東松島市などで1人開業の登録申請がされてきたが、「既存の事業所で受け入れ可能」「2月29日までの期限付きなので期間が不十分」「前例がない」などの理由でことごとく拒否されてきた。ただ、福島市が認めたことで、2月29日以降も特例措置が継続する可能性が高いとみられる。

医療に精通した看護師が仮設住宅に多く関与することになれば、波及効果として支援が必要な高齢者を新たに見つけ出すことも可能になる。そしてそのことが、寝たきりや認知症の防止のみならず、住民の安心にもつながる。被災地では、今までの定式を超えた支援の手法が求められている。

(岡田広行 =週刊東洋経済2012年2月25日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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