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スポーツが進化を牽引した“カーボン” 〜トレカ(R) 高強度・高弾性の両立を追う歴史〜

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軽くて強い魔法の素材
さまざまな用途で市場が急成長

炭素繊維とは、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維あるいはピッチ繊維といった「有機繊維」を原料に、高温で炭化して作った繊維のこと。東レでは1971年からPAN系炭素繊維トレカ(R)糸「T300」の製造・販売を開始。当初はゴルフシャフトや釣りざおといった用途に用いられ、1980年代にボーイングやエアバスといった航空機の構造材に採用されたことから用途が拡大。その後、圧力容器や土木・建築用途など産業用途が本格化し、2000年代中頃からは自動車分野や医療機器、IT関連など幅広い分野で用いられるようになった。

 
花野 徹
東レ ACM技術部長 産業・スポーツ技術室長
カーボン創生期からその革新にたずさわってきた、東レの知見者のひとり。

現在ではさまざまな用途で採用されている炭素繊維。その特徴はご存知のとおり「軽くて強い」ことだ。比重は1.8前後と鉄の7.8のおよそ25%。アルミの2.7やガラス繊維の2.5と比べても格段に軽い。その一方で強度および弾性率に優れ、引張強度を比重で割った比強度は「鉄の約10倍」。引張弾性率を比重で割った比弾性率は鉄の約7倍にもなる。また炭素なのでさびることもなく、繊維状であるため加工性に優れることも炭素繊維の特徴のひとつだ。最初の「T300」から進んだ技術は、現在「T1100」というラインで強度も弾性も倍以上の数値を得るまでになった。

これまでコスト面や生成の難しさから普及に時間のかかった炭素繊維だが、2000年代以降その市場は急速に拡大。こうした背景には取り巻く事業環境の変化がある。

例えば地球温暖化はそのひとつ。排出ガス規制の強化やエコ意識の高まりを受けクリーンエネルギーのニーズが年々高まるなか、炭素繊維は「軽くて強い」ということから風力発電ブレードや天然ガスタンク、原発のウラン濃縮回転胴などに採用されるようになり、エネルギーの多様化や石油に代わる代替燃料への移行に貢献。また軽量化による省エネも炭素繊維なら実現することができる。

世界需要見通し
 

自動車に炭素繊維を使用して車体構造を30%軽量化すると炭素繊維1トンあたり50トン、航空機で機体構造を20%軽量化すれば1400トンのCO2削減効果が10年間のライフサイクルで得られる。もしも日本の乗用車や航空機すべてに炭素繊維が用いられることになればその削減効果は2200万トン、国内におけるCO2排出量のおよそ1.5%を削減することができるのだ。

このように地球環境にも優しい素材である炭素繊維。その需要は年々増加し、市場全体では年率20%近い成長が見込まれている。

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