真の才能は「狂気に満ちた集中」から生まれる IT時代にこそ「真価を発揮する才能」とは?

拡大
縮小

機械化、情報化が進んだ現代において価値ある才能の条件。そのひとつが「ディテール」ということでしょう。たとえば同じような洋服があったときに、優秀なデザイナーやファッションプロデューサーは、一瞬にして「こっちはダサいけど、こっちはダサくない」ということを判断します。そして、多くの消費者は、その判断を支持するわけです。

つまり、機械やデータでは判断できない、「ダサい」「ダサくない」の最後の感性レベルのディテールを決めるのが、デザイナーに求められる重要な仕事になってきている、ということです。

もちろん、こういう「感性」レベルのことだって、時間をかければコンピューターで解析し、プログラム化することはできるかもしれません。しかし、どこまでいっても、人間を追いぬかすことはできないでしょう。なぜなら、そういったものは、個人個人の没入体験に基づいた、そのとき、その場で生まれた「新しい価値観」によるものでなければ、ほとんど無意味だからです。

「微妙」を察知できるか

これは別に、ファッションや小物といった分野に限りません。日本の輸出産業の大黒柱である自動車産業だって同じです。確かに「自動車を作る作業」のほとんどは、もはや人間の仕事ではないかもしれません。しかし、最終的に出来上がった自動車に乗って、ステアリングの重量感を感じ、車を運転する運転者の「快感」に同調して、最終的な調整を行うことは、機械やデータには不可能です。

スティーブ・ジョブズが自社の発明品についてさまざまな特許を申請しているなかで、とりわけ厳重に保護しようとしたのが、iPhoneなどでおなじみのフリック入力だといわれていますが、それはきっと、フリック入力が「質感」に属する特許だったからでしょう。

ディテールを感じ取れる感性を育てること。これはおそらく、これからの時代において通用する「才能」の、必須条件といえるのではないでしょうか。ちなみに、僕がいまいちばん力を入れている真言密教(しんごんみっきょう)に「無上甚深微妙法」という言葉があります。「むじょうじんじんみみょうほう」と読みますが、これは仏陀の悟りの境地が、これ以上にないぐらい深く、「微妙な」法である、という意味です。

「微妙」という言葉を、そのまま現代語と同じ意味に捉えることはできませんが、たとえばこんなふうに解釈することも可能でしょう。みんながある方向に歩いていくとき、角度にしてたった1度だけ、東にずれた方向に歩いていったとします。10メートル先であれば、ほとんど同じところを歩いているでしょう。しかし、1キロ、10キロ、100キロと、先に行けば行くほど、あなたは、それまで一緒にいた仲間たちとはまったく違う場所を歩くことになるはずです。

微妙な違いを「違い」と察知するか「同じ」と無視してしまうか。その感性の違いを作るのは何か。それは、全身全霊で物事に集中し、没入した体験ではないかというのが、僕の仮説なのです。

 

プレタポルテの関連記事
15期連続2桁増収のスーパーの人事を支える「類人猿分類」のすごさ(名越康文)
責任を取ることなど誰にもできない--『困難な成熟』第1章より(内田樹)
「不倫がばれてから食生活がひどいです」(石田衣良)

 

名越 康文 精神科医

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

なこし やすふみ / Yasufumi Nakoshi

1960年、奈良県生まれ。精神科医。専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪府立精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、99年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。
著書に『心がフッと軽くなる「瞬間の心理学」』(角川SSコミュニケーションズ、2010)、『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』(夜間飛行、2013)などがある。
夜間飛行よりメールマガジン「生きるための対話」刊行中。オフィシャルウェブサイトはこちら。twitterはこちら

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT