(第78回)ふるさと食の効用(その2)

山崎光夫

 身土不二(しんどふじ)という言葉がある。人の命と健康はその土地とともにあるという考え方である。

 これは、福井出身で陸軍薬剤監を経た栄養学者、石塚左玄(いしづかさげん・1851~1909)が唱えた食思想を基盤にしている。

 普段の食事はその土地、そのときの季節の食物を基本にするとよい。

 その場合、四里四方(おおよそ16キロメートル四方)でとれる旬のものを食材にする料理を推奨する。人の命と健康はその土地とともにあるとした。
 今日でいう、地産地消の発想である。世界的なうねりでもあるローカリゼーション(地域主義)にも適っている。
 このように、食事で健康を養うための独自の理論をうちたてた。栄養学が今日のように発達していなかった大正時代に石塚が会長を務める「食養会」が提唱したのである。
 前は海、後は山、住んでいるのは里--これが日本の原風景。この環境から生まれたのは日本式食事=和食であろう。
 和食の定番は、ご飯、みそ汁、納豆、海苔、焼き魚(イワシ、シャケ、サンマなど)、おひたし。さらに、卵、刺身、てんぷら、煮物、漬物、煮豆、佃煮などが食卓にのぼる。
 海、山、里からとれる食材を万遍なく使っている。この和食がいわば日本人の郷土食である。

   日本の風土に根ざした日本食。この「和食」を文化審議会はユネスコの世界無形文化遺産への登録を試みるという。「和食」は、正月や田植え、収穫祭などの年中行事と密接に関係し、家族や地域と結びつきを強める社会的慣習という位置づけである。
 確かに、「和食」は日本の長寿社会、肥満防止、食材の多彩な利用などに結びついている。
 日本人の郷土食が世界的に認識されれば、一段と「和食」に誇りを持てるかもしれない。

 ところで、石塚左玄は「食育」を重視した。
 学童の教育において、
 「体育、智育、才育はすなわち食育なり」
 とした。
 知育一辺倒の学校教育に警鐘を鳴らした最初の人物である。

 学校給食が重視される昨今、石塚左玄の「食育」構想は100年前からの発想だった。先見の明があった。
 19世紀中頃からヨーロッパで始まったという学校給食。日本の学校給食は明治22(1889)年、山形県鶴岡市の私立忠愛小学校が最初といわれる。
 現在、学校給食に身土不二の和食が導入されている学校も珍しくなくなっている。さらに広範に実施されれば、日本人の体格、体力の向上に寄与するだろう。
 身土不二の思想に根ざした学校給食は世界でもあまり類を見ないシステム。この「身土不二給食」こそ世界文化無形遺産ではないかとも思う。

 食が日常生活や社会の基本である点は世界共通の認識であろう。
 いずれにしても、いま、あらためて言いたい。
 「日本食、ありがとう」
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』『二つの星 横井玉子と佐藤志津』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
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