パナソニック・中村邦夫という聖域 プラズマ敗戦の「必然」

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そして、多くの関係者は何よりも中村自身の気質、威圧感を挙げる。中村は「無口、気弱、内向的、引っ込み思案、取り越し苦労」と、謙遜気味におとなしい男を自称する一方、しばしば部下に向かって猛烈に怒りをぶつける。“静”が“動”へと豹変する迫力は、並大抵のものではないようだ。自室に呼びつけ、低くドスの利いた声で怒鳴り上げられると「もう息が止まりそうになる。反論したくても、気押されてしまって『はい、はい』としか返せなかった」(元役員)。

中村と同じ職場にいたことのある別の関係者はこう評する。「上司に対する忠誠心は強いし、ぶっきらぼうに見えて気遣いのできる人。仕事もでき、松下正治(名誉会長)さんも彼を買っていた。しかし『お前の考えはどうか』と、意見を求めるようなタイプではなかった」。

そんな中村が、とりわけ神経質になったのは人事だった。社長時代は事業部門長クラスの人事ですら、自分を通さずに勝手に決めると、担当役員を怒鳴りつけた。この性分は会長となった現在も変わらないようだ。複数の関係者は「役員の処遇は最終的には中村会長が決める。大坪(文雄社長)さんではない」と口をそろえる。

役員人事権の掌握に加え、中村のこだわりは新卒採用にも及ぶ。11年度入社の新卒採用市場を「パナソニック・ショック」が駆け抜けた。採用予定の1390人のうち、国内採用を前年比で4割も減らす一方で、海外採用を5割増の1100人にする計画を表明。

日本企業が海外で1000人規模を大量採用する前例のない行為は「ついに日本企業の日本人離れが起こった」と話題を呼んだ。この背景について、パナソニック関係者はこう明かす。「実は従来どおりの新卒採用をやる計画だった。大坪社長も了承したが、中村会長がなぜか土壇場で『駄目だ』と引っ繰り返した。それで人事部門が大わらわになって計画を立て直した」。

 

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