隠れた巨大ヒット「ネジザウルス」の秘密 所さんも注目した、超便利工具

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営業担当者がホームセンターなどを訪れると、販売の最前線に立つ方の肌感覚なのか、そう言ってネジザウルスに代わる新商品を催促されることが、たびたびありました。「1万丁で大ヒット」という工具業界の常識に従えば、ネジザウルスはお客様の需要を満たしていて、すでに市場が飽和状態にあると考えるのが当然だったかもしれません。

業界の常識に従わなかった理由

頼みの綱のネジザウルスが、お客様から飽きられているとしたら、私たちはどうやって赤字から脱却すればいいのか——。

従業員のボーナスは3割ほどカットしていて、出張もほとんどが取り止めです。会社の照明もできるだけ消すなど、古典的なケチケチ作戦でコストの削減に努めましたが、売り上げが伸びないことにはどうしようもない。2年連続の赤字だけはなんとしても避けなければいけませんが、では具体的に何をすればよいのかと考えてもよい案は浮かばず、胃が痛い日が続きました。

そうしてどれくらい経ったころだったか、悩みに悩んだすえ、私の気持ちは固まりました。

「ネジザウルスの新作に挑戦しよう」

過去のヒット商品になりかけていたネジザウルスに新世代モデルを投入して、さらなる売り伸ばしをはかることにしたのです。

理由は2つあります。

ひとつは、お客様へのアンケートハガキにネジザウルスの改善点について、さまざまなご要望が寄せられていたからです。お客様からのご要望は、商品に対する不満の裏返しです。つまり、お客様は既存のネジザウルスに決して満足していないということです。適切な改善を施した新商品を発売すれば、まだまだ売れると感じました。

もうひとつは、ある取引先の担当者さんが、ふともらしたひと言でした。

「ネジザウルスよく売れてますなあ。この調子やと、『一家に一本、ネジザウルス』ですなあ」

そう言われて、ハッとしました。日本には5000万世帯もの「家庭」があります。50万丁売れたとしても、世帯普及率はたったの1%でしかありません。市場が飽和状態にあるというのは錯覚で、お客様の大多数はネジザウルスに飽きているどころか、まだその存在さえ知らないのです。

「まだ売れる。もっと売れるに違いない」

そう私は信じました。全社を挙げて新たなネジザウルスの開発に着手したのは、それから間もなくのことです。次回記事では、ネジザウルスの「逆襲」について書いていきます。

(次回に続く)

髙崎 充弘 株式会社エンジニア社長

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たかさき みつひろ

1955年、兵庫県神戸市生まれ。東京大学工学部卒業後、三井造船株式会社に入社。

米国レンスラー工科大学に留学し、修士課程卒業。87年、家業の双葉工具株式会社(現エンジニア)に入社。

2004年から現職。02年に発売した工具「ネジザウルス」をシリーズ累計250万丁の大ヒット工具に育て上げた。13年より知的財産教育協会中小企業センターの初代センター長も務める。

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