橋下市長が描いた「大阪都営地下鉄」の全貌 鉄道マニアには興味深すぎる路線構想

拡大
縮小
画像を拡大
「大阪都営地下鉄」の架空路線図。大阪維新の会がマニフェストで示した鉄軌道の整備案を現在の路線図に記入してみた

これらを今の地下鉄路線図に書き加えてみたのが、以下の「大阪都営地下鉄」路線図だ。鉄道マニアとしては、いろんな意味で興味深い新線構想である。

直前まで批判していた今里筋線延伸案は南北に延長した構想で示される。2009年の堺市長選で無駄遣い事業と現職批判の材料にした堺市東西交通構想もなぜか復活する。

建設費は、特別区に配分される地下鉄会社の株式、それと大阪市保有の関西電力の株式を売却した資金を使うという(北区)。市長の持論である「ストックの組み替え」を具体的に提案することで、地下鉄民営化のメリットをアピールしたかったのか。

松井一郎大阪府知事は、北大阪急行と大阪モノレールの延伸に積極的な発言をする。2014年に大阪府都市開発株式会社(泉北高速鉄道)の株式を南海電気鉄道グループへ売却した、その資金を使うようだ。2004年の近畿地方交通審議会答申第8号で、今里筋線延伸区間の費用便益比は2.10と試算されたのに対し、北大阪急行は1.58、大阪モノレールは1.29と低評価だった。なぜ優先的に建設されるのかは不明だ。

さて、橋下市長の民営化案はどうなったのか。

2014年4月から地下鉄1区料金のみ200円から180円にして、「運賃値下げ」という民営化案の最大のメリットを示した一方、「市議会で否決されたら値上げする」とも発言していた。彼独特の駆け引きなのか。市議会に地下鉄事業を廃止する条例案を提出したが、2014年11月と2015年2月に否決されている。

大阪都構想の住民投票が近づくと、民営化案にほとんど言及しなくなった。市民の関心が薄いことを悟ったのだろう。同年5月の都構想否決後、9月の大阪市議会で3度目の提案を行うとされているが、先行きは不透明だ。

交通インフラ整備の「二重行政」を容認

橋下市長が交通政策の将来像として示していたのは、「大阪市営地下鉄民営化」、そして前回記事で述べた「インフラの組み替え」だ。

地下鉄民営化が本当に必要だったのかどうか。地下鉄事業が2003年から黒字転換した一方で、企業債残高は5292億円もある。本当にサービスが改善され、運賃値下げされるなら、民営化の選択肢を全否定すべきでもない。

ただ、橋下市長が、「各特別区が、配分された地下鉄会社の株式を資金として延伸を決めることは、ありだ」と発言した点には疑問を感じる。

画像を拡大
大阪府が決めた大阪モノレールの延伸。ルート沿いの東大阪市では2015年9月に市長選が行われる

大阪都構想や地下鉄民営化を推進する「目的」として、「交通インフラ整備の一元化」を行うこと、そして広域的な視点に立った都市戦略を実行することを掲げてきた。なのに、民営化条例を提出する直前、大阪都だけでなく特別区も地下鉄建設を決定できると「二重行政」を容認してしまった。自らの理念を根本から覆す主張だ。

反対する野党との駆け引きというのはわかるが、思いつきの鉄軌道構想を並べただけの特別区のマニフェストを見ていて寂しい思いをした。有権者に媚びて「我田引鉄」をしている姿は、旧態依然とした議員や役人と何ら変わらない。

次ページなにわ筋線はどのように取り組むのか
関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT