橋下市長が描いた「大阪都営地下鉄」の全貌 鉄道マニアには興味深すぎる路線構想

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大阪市議会の野党は、橋下案の民営化に猛反対する。高齢者の関心の高い敬老パス(地下鉄バス乗り放題)の有料化を批判材料とした。市長は「敬老パスはなくならない」「市営交通以外にも拡大」「特別区が決めること」と予防線を張り、民営化への賛同を集めようと各地のタウンミーティングへ精力的に顔を出した。

その際、地下鉄今里筋線の延伸計画の是非も、野党との論戦になった。

今里筋線は、大阪市の東側、井高野(東淀川区)~今里(東成区)~湯里6丁目(東住吉区)間の地下鉄計画で、井高野~今里間は2006年に開業した。

開業区間の営業成績はかんばしくない。輸送人員は2013年度で6.2万人/日で、開業前に想定した12万人/日との数字を大幅に下回っている。サイズの小柄な新交通システムでもまかなえる数字だ。営業係数は2013年度で244.6。100円の運賃収入を得るために244.6円の費用がかかることを示す。費用便益比(費用に対してどれだけの便益を得られるかを示す)は、特許申請時には3を超える評価があるとされていたが、2012年度の再評価では1.14と下方修正されている。

かき消された採算懸念の声

今里筋線の需要の少なさは建設前より懸念されていた。

1989年の運輸政策審議会答申10号で「今後路線整備について検討すべき区間」と最も低い評価にされ、大阪モノレール、おおさか東線、バス輸送などとの比較検討を求められた。大阪市公営企業審議会も今里筋線の建設に慎重な対応を求めていた。

それでも、大阪市役所は建設ありきで計画を進める。「地元に地下鉄が欲しい」と今里筋沿線を地盤とする市議会議員から強い要請があったためだ。90年代に大阪市長を務めた西尾正也氏と磯村隆文氏が今里筋線沿線の出身というのも大きい。同審議会委員を務めた伊勢田穆大阪市立大名誉教授は「採算を考えて建設すべきでないという我々の反対意見はかき消された」と述懐している。

大阪市役所は、バブル経済の崩壊後も、アジアの拠点都市になりたい、大阪オリンピックを誘致したい、と大規模インフラの整備を続けていた。今里筋線もその一つだ。2001年に五輪招致レースで惨敗した後でも危機感の薄い市役所への反発。それが橋下市長を生み出す原動力となった。

次ページ今里筋線延長計画を巡る橋下市長と野党との駆け引き
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