コンバースは、なぜ音楽スタジオを運営するのか アーティスト支援というマーケティング戦略

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先述のルイス氏は、「ラバー・トラックスは弊社のコンテンツのキージェネレーター(促進剤)だ。われわれは、弊社の製品を紹介するだけでなく、ミッションについても消費者と語り合いたい。だからコンテンツが本当に重要になってきている。われわれと消費者をつなぐのが音楽であり、ラバー・トラックスが生み出すすばらしい音楽コンテンツなのだ」と語る。

ウィリアムズバーグにあるブルックリン・スタジオのエクステリア

また、コンバースは過去にこのスタジオで録音したミュージシャンの楽曲を集め、2万1000曲のサンプルライブラリーを作成。これからレコーディングに訪れるアーティストに、無償で提供できるようにした。このライブラリーは2015年初めに開設され、合法的に利用すれば高額になるところだが、過去にここでレコーディングしたアーティストの協力で無償でサンプリング提供することを可能にした。

さらに、同社ではTumblerで音楽コンテンツ専門のアカウントを運営。アーティストのインタビューや楽曲、アーティスト情報の発表を行っている。そして、それらに合わせてラバー・トラックのライブや、コンバース主催の無料コンサートの情報も同時に発信しているのだ。

ラバー・トラックスに残された課題

先述のケラー教授は、「コンバースが若いアーティストにやろうとしていることは評価できるが、結局は自社のプロダクトを売ることが目的だ」と、語る。「それを踏まえれば、コンバースが男社会である音楽業界にさらに踏み込もうとしていないことを残念に思う」と述べている。「もう少し女性アーティストの参加も検討していいのではないか。彼女らを無視しているとは言わないが、多様性をもたせるために女性の数を増やすことは出来るだろう」。

コンバース側は、どのぐらいの女性アーティストがラバー・トラックス(Rubber Track)を利用したかについては明らかにしていないが、一方で世界的な拡大を狙っているという。2015年秋、9000組の応募者のなかから84人のアーティストを送り出す予定だ。使われるのは、ブルックリンのラバー・トラックスや、ロンドンを含む12のスタジオである。なお、音楽機器については楽器ショップ、ギターセンター(Guitar Center)と提携し、音楽事業の拡大も計画している。

ルイス氏は、このようなコンテンツ戦略の成功について「確かな形で音楽業界に恩返ししようとしていて、現在とても反響がある。いまのところ、結果にはとても満足している」と述べた。

Hilary Milnes(原文 / 訳:南如水)
All images via Hannah Yi

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DIGIDAY[日本版]編集部

2015年9月1日にローンチした「DIGIDAY[日本版]」を運営。同サイトでは米「DIGIDAY」が日々配信する最新のデジタルマーケティング情報をいち早く翻訳して掲載するほか、日本国内の動向についてもオリジナル記事を配信している。メディアジーンが運営

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