緊縮策を実施すれば経済は回復するのか--ロバート・J・シラー 米イェール大学経済学部教授

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政府債務の削減(歳出削減と増税、またはその一方)は、必ず経済に対しマイナス影響を与えるのだろうか。この問いに対し、最近、ハーバード大学のアルバート・アレシナ教授が証拠を集約した。彼の出した答えは、「はっきりとノー」。つまり、政府債務の急激な縮小の後、経済が回復することがしばしばあるということだ。緊縮策によって信頼が高まり、それが回復の引き金になるのかもしれない。

ただし、因果関係が逆である可能性もある。たとえば、先行きの好景気を示唆する指標を見た政府が、景気の過熱やインフレを懸念し、増税と政府支出の削減によって国内需要を鎮静化しようとするケースが考えられる。この場合、政府が中途半端にしか景気過熱を抑制できなくとも、表面上は、緊縮策が経済を強化したように見えるはずだ。

緊縮財政は不本意な結果を生む

近頃、国際通貨基金(IMF)のジェイミ・グアジャルド、ダニエル・リー、アンドレア・ペスカトリの3名が、17カ国の政府が過去30年間に実施してきた緊縮策について研究を行った。

彼らは、これまでの研究者たちとは異なるアプローチを採用した。政府の意図に注目し、公的債務のパターンだけではなく、政府関係者たちが言及した内容を観察したのだ。そのために、予算スピーチを読み、安定化プログラムを吟味し、政府高官のインタビュー動画を見た。そして、政府が、潜在的に長期的な利益につながる慎重な政策だと判断したうえで増税や歳出削減を実施したケースだけを、緊縮策と定義した。一方、短期的な経済見通しに対応し、景気過熱のリスクを減らすために増税や歳出削減を実施したケースは、緊縮策に該当しないとした。

彼らの研究は、「緊縮策が消費支出を減少させ、経済を弱体化させる」というはっきりした傾向を突き止めた。この結果が有効ならば、今日の政策立案者たちに対する厳しい警告となる。

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