(第34回)正確に誤るよりは、およそ正しくありたい

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この連載で日本企業についてこれまで論じてきたのが、この問題だ。条件が大きく変化したにもかかわらず、ビジネスモデルを転換できないという問題である。液晶テレビで生じているのが、まさにそれだ。これは、1990年代の初めに半導体で生じた問題の繰り返しであり、PCで生じた問題の再現だ。結果、製品の品質で国際的に高い評価を受けながら、日本企業の収益が落ち込む。

日本で「現場力が強い」といわれるのは、経営の判断能力が弱い(または存在しない)ことの反映である場合が多い。福島原発の海水注水問題も、本来、現場の独断は批判されるものだろう。そうならないのは、中央の指示が誤っていたからだ。

戦時中の関東軍の独走が典型例だが、日本の組織ではシビリアンコントロールが利かないといわれる。日本の組織は、現場の独走を防ぐのが難しいといわれる。その基本的な理由は、トップの能力が低く、現場がトップを信頼していないことだ。

大変化に対応するには現場力でなく経営力

条件が変化すると、現場主義だけでは対応できない。本誌1月28日号は、パナソニックの「まるごと事業」が失敗した原因は、システム営業部門とハード部門の葛藤だったと述べている。保守・メンテナンスで稼ぎたいシステム部門は、機器納入価格を安価にしたい。しかし、ハード部門はそれに反対する。そして、ハードが社内本流であるために勝った、という診断だ。

こうした社内抗争は、IBMがビジネスモデルをソリューション事業に切り替えようとしたときに起こったものと、まったく同じものだ(拙著『大震災からの出発』、東洋経済新報社、2011年、第4章)。IBMの場合、サービス部門は他社の製品を推奨することさえ行ったのである。社内の反対勢力と戦い、説得し、協力を取り付けることこそが、IBMを改革しようとしたガースナーの主要な仕事だった。

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