新国立競技場、「出直し計画」にも異論が噴出 コンペは締め切られたが、なおも課題は山積

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ではなぜ、19万平方メートルという大きさが必要だったのか。新国立競技場の建設を機に、隣にある都営霞ヶ丘アパートの住民を立ち退かせて、都心の一等地の再開発をスムーズに行いたい、という東京都の意思が働いている、との見方があがっている。

同アパートには、1964年の東京五輪に伴う国立競技場周辺の工事で立ち退きを迫られ、現在の住居に移った住民が多い。その人たちに、再開発を念頭に置いた2度目の立ち退きを迫るため、再び五輪が理由とされているのだ。

「周辺との調和」は図られるのか

同様に、新国立競技場の高さを「70メートル以下」と定めた理由も、競技場(スポーツ)のためではなさそうだ。

神宮外苑一帯は、もともと景観保全のため、建築物の高さが15メートルに制限された地域だった。が、JSCの入る日本青年館ビルを突破口にして周辺の高層ビル化を進めるため、前回のコンペで競技場の高さ制限を70メートルとした。そしてザハ氏のデザインが選ばれた後、競技場建設のために条例が改定され、新コンペもそれを踏襲したわけだ。

はたしてそれで、新計画において掲げられている基本理念の一つ、「周辺環境等との調和」を実現できるのか。

新計画を検証してわかるのは、競技場の周辺にある神宮球場、秩父宮ラグビー場、オフィスビル、そして住民が一体となった、地域全体の再開発に関する具体的な議論が深まっていないことである。新国立競技場だけに大騒ぎせず、五輪を利用して東部地区の再開発に成功したロンドンから、多くを学ぶべきだ。

「週刊東洋経済」2015年10月3日号<9月28日発売>「核心リポート01」を転載) 

玉木 正之 スポーツ評論家
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