なぜ村上春樹は世界中の人々に「ささる」のか 村上作品の英訳者・ルービン氏、大いに語る

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実は、漱石なども同じだと思います。漱石の言葉に、「還元的感化」という言い方があります。彼の「文芸の哲学的基礎」という講演をもとにまとめられた論文に出てくるもので、僕は最初に読んだとき、強い印象を受けました。

還元的感化とは、作家と読者の間に「純粋かつ個人的な関係」が構築されるたぐいの感化を言います。作品そのものが、読者の心にストレートに飛び込んでいく。

村上作品には、人々に内省をさせる力がある

――今回ご自身も小説『日々の光』(新潮社)を刊行されました。第二次大戦中のアメリカの強制収容所を描いています。

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村上さんも『波』(新潮社)にありがたい言葉を寄せてくださいました。うれしいことです。

『日々の光』のモチーフは戦争なのですが、本来アメリカの読者のために書いたものながら、日本の読者にも受け入れてもらえると期待しています。大昔から反戦文学や映画作品がつくられてきましたが、戦争はなかなか終わらない。いくら反戦のことを書いても意味がないと否定的に考えることもできますが、もっと積極的な態度を保ちながら書いていきたいし、読んでほしい。

実はこの作品は今から30年前の1985年に書き始め、2年ほどかけて仕上げました。当時いくつかの出版エージェントに声をかけたのですが、採用されませんでした。強制収容所についての作品ですし、「第2次大戦後70年」ということもあって、今回採用されたのだろうと思います。

70年とは一つの人生に匹敵する時間です。この機に出せなければ永遠に出せないのだろうと思ったわけですね。

村上さんも戦争に敏感な作家ですが、彼の作品は読者に考えさせてくれます。内省させてくれます。戦争を始める政治家には、その内省が必要だと思う。文学の持つ力は想像する以上に大きいのですから。

ジェイ・ルービン ハーバード大学名誉教授
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