【産業天気図・鉄道/バス】中間期は増額着地。通期も一段の増額余地

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鉄道業界は売上高の成長性にはやや難があるが、利益高水準の「晴れ」状態が06年度下期から07年度についても続きそうだ。
 私鉄大手13社(非上場の西武ホールディングスを除き、阪急阪神ホールディングス<9042.東証>は旧阪神電鉄の第1四半期実績を合算)合計の07年3月期9月中間期の売上高は3兆4662億円(前年同期比0.9%減)、営業利益2789億円(同3.3%減)、経常利益2353億円(同4.7%増)、中間純益1290億円(同96.5%増)だった。
 売上高は6社で増収、7社で減収。2ケタ減収の名古屋鉄道<9048.東証>と4.7%減収の近畿日本鉄道<9041.東証>は愛知万博効果の反動減。京王電鉄<9008.東証>は売り上げ計上方法変更によるマイナスだった。営業利益も6社増益、7社減益。減益のうち名鉄、近鉄は売上高と同じ要因が働き、京浜急行電鉄<9006.東証>、京阪電気鉄道<9045.東証>は前中間期に不動産の大型物件が計上された反動減。東京急行電鉄<9005.東証>は鉄道工事完成に伴う大型除却費の発生が足を引いた。中間純益が急増したのは前上期に減損を計上した近鉄、南海電気鉄道<9044.大証>が赤字から黒字に転換したことや、旧阪神、京急も減損の一巡、東急も特損減少で純益が急反発したためだ。
 中間期の鉄道業界の基調は、輸送人員が関東では小幅増加、流通は堅調、不動産は物件次第ではあるが総じて好調だった。
 この中間期実績を期初見通しと比較してみる。期初予想では売上高(阪急阪神は旧阪急と旧阪神を合計)は3兆4050億円、営業利益2401億円、経常利益1798億円、中間純益840億円であり、中間実績はそれらをそれぞれ1.8%、16.2%、32.4%、53.5%上回った。売上高では10社が期初見通しを上回り、3社が下回った。これは東急、京王、小田急電鉄<9007.東証>などは輸送人員の増加幅が拡大、東武鉄道<9001.東証>、南海、西日本鉄道<9031.東証>などは減少幅が緩和したことが一因となっている。増加組は沿線人口の増加が寄与しているが、基調として定期客の増加は雇用増、定期外客の増加は個人消費回復という外部環境(景気)の好転が大きい。つくば新線の影響が懸念された東武の健闘はダイヤ改正効果など主体的努力も一因だった。
 営業利益、経常利益、中間純益は13社全社が予想を上回って着地した。相模鉄道<9003.東証>は下期計上予定の不動産販売物件が、また東武は同じくSPC配当収入55億円が、ともに上期に繰り上がった要因が大きいとはいえ、総じて鉄道会社は、上期に不動産賃貸物件も含めて修繕費を大目に見込んでいたり、経費面で慎重な想定を立てる傾向がある。もともと低めに予想しているうえに、前期からの輸送人員の健闘が続くなど、今中間期は予想前提と実績との乖離が大きく出た感が強い。

中間期実績を踏まえ、『会社四季報』の07年3月期通期予想は13社合計(阪急阪神は通期予想に旧阪神の第1四半期実績を合算)で売上高7兆1825億円(前期比0.1%減)、営業利益5274億円(同3.1%減)、経常利益4241億円(同1.7%減)、純益2439億円(同21.0%増)となった。ただ『四季報』は東急、京王、京成電鉄<9009.東証>については会社側見通しが過小のため、独自に上乗せしている。
 今回の通期見通しでは、前期比増収が7社、減収が6社。中間期の減収分析で上述した3社が2%以上の減収予想。営業利益、経常利益も、ともに7社増益、6社減益。阪急阪神はのれん償却、旧阪神株TOBに伴う有利子負債の増加が負担となり、名鉄、近鉄は万博反落が通期でも響く。また東急は大型除却費が重荷、東武は不動産販売益の反動減が足を引く形だ。純益は10社が増益、3社が減益を見込んでいるが、減損一巡などで全体としては大幅な増加が見込まれている。
 以上の通期予想に対し、期初時点での見通しは、売上高7兆1735億円、営業利益5101億円、経常利益3996億円、純益2356億円だった。売上高で期初比増額は8社、減額は阪急阪神、京急、京成の3社。近鉄、相鉄の2社は不変だった。営業利益、経常利益は、ともに増額12社、減額の阪急阪神は既述のようにのれん償却と有利子負債が重い。純益は9社が増額、阪急阪神、南海、西鉄の3社が減額。西鉄は一部赤字線の廃止特損が響く。不変は近鉄1社。
 ただ、こうした通期見通しについても、期が進むにつれて増額を繰り返す傾向のある京王は「流通の経費を大目に見ている」とし、東武も「足元10月以降の輸送人員は想定より良い」とするなど、今期の着地点は各社総じて現在の予想よりも高くなりそうだ。一つのメドとして第3四半期の決算動向が注目される。そこまでいけば、業績を左右する冬場の天候や、百貨店の冬物販売の動向がはっきり確認できるためだ。13社営業利益予想が前期実績を下回る額は約170億円であり、締めてみれば、前期並みに近付く可能性は大きい。
 続く08年3月期について『四季報』は、売上高7兆2450億円(今期予想比0.9%増)、営業利益5386億円(同2.1%増)、経常利益4279億円(同0.9%増)、純益2342億円(同4.0%減)と見ている。鉄道各社とも期初見通しは慎重になる。期初では『四季報』予想でも会社見通しに引きずられやすいため、案外、現時点での1年半後の予想のほうが実際には近いかもしれない。ただ、雇用情勢は堅調が続くかもしれないが、個人消費がどうなるか、には注意が必要だ。また人口が増えている首都圏を含む関東は輸送人員の小幅増が続くかもしれないが、関西圏等は微減が続くという構造的な傾向は続きそうだ。
【中川和彦記者】


(株)東洋経済新報社 会社四季報速報プラス編集部

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