JALの自信と不安、ポスト稲盛体制が始動

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JALの自信と不安、ポスト稲盛体制が始動

日本航空(JAL)のポスト稲盛体制が、やや前のめりで始動する。

1月17日、JALは稲盛和夫会長(79)が代表権なしの名誉会長に退き、大西賢社長(56)が会長、パイロット出身の植木義晴専務執行役員(59)が社長に昇格する人事を発表した。今秋のJAL株式再上場計画、来年2月の稲盛氏の完全退任をにらみ、「私がいるうちに、なるべく早く生え抜きの役員による執行体制を築きたいと思った」(稲盛氏)。稲盛氏は今後後進の指導に集中。完全退任までの助走期間を設けた形だ。

破綻からわずか2年で“平時体制”への移行を始めるJAL。背景にあるのは、経営再建の順調さだ。人員や路線の大幅削減に加え、稲盛氏が注入した京セラ流の部門別(路線別)採算システムが奏功し、再建1年目の前期に営業益1884億円の過去最高を記録。大震災に見舞われた今期計画も同1400億円と高水準。この利益には更生計画実施による減価償却費目減り460億円が含まれるが、それを除いても全日本空輸(ANA)の今期営業益計画700億円を凌駕する規模だ。

再建当初は、約2300億円の借入金が残った銀行団との関係が危惧されたが、それも杞憂に──。現金収支のプラス転換で昨年9月末のJALの手元流動性は約4230億円と、企業再生支援機構の出資金3500億円がまるまる残ったうえにお釣りが来た。昨年末、JALは借入金の大半を返済してしまった。

 

 

植木氏は航空大学校出身で、入社以来35年間パイロット一筋。「一生現役」が通常のパイロット職だが、JAL破綻時に経営参画を要請され、操縦桿を置いた。部門別採算の砦である路線統括本部長を務める一方、経営手法や哲学を「稲盛からゼロから教えてもらった」(植木氏)。新会長の大西氏も同社初の整備畑出身で、トップが営業畑や労務畑、天下りに限られたかつてのJALの体質とは様変わりだ。

ただ今年は自社合弁を含め、三つの日系LCC(格安航空会社)が始動し、国内線でも価格競争圧力が強まるのは必至。植木氏は「毎月の路線別収支を見て、高い利益に喜ぶとともにさらに上を目指してきた」と社内の好循環を強調したが、本当の実力が試されるのはこれからになりそうだ。

(野村明弘 撮影:今井康一 =週刊東洋経済2012年1月28日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

 

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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