日本の鉄道模型が欧州で売れ続けるワケ ガラパゴス化した日本の独自規格が大逆転

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そこで、日本では線路幅を9mmとし、標準軌の新幹線を除く在来線車両は欧米型より一回り大きい1/150でつくることが一般化した。これなら線路を共用でき、サイズ的にもほぼ同じ世界に共存できる。「1/150・9mm」のNゲージは、狭軌の鉄道が発達した日本ならではの規格だ。ある意味では「ガラパゴス規格」とも言える。

「氷河特急」が走るスイスのレーティッシュ鉄道は、線路幅が欧米標準の1435mmではなく、日本の狭軌に近い1000mmの「メーターゲージ」と呼ばれる鉄道だ。欧米の発想では、こういった鉄道の模型を造る場合は縮尺を標準軌の鉄道と同じにし、線路幅を狭くする方法をとる。

例えば、欧州ではレーティッシュ鉄道などのメーターゲージ鉄道の模型として、ドイツのメーカー・ベモ社が発売する、縮尺1/87・線路幅12mmの製品が普及している。これは標準軌の鉄道を1/87・線路幅16.5mmとするHOスケールに基づき、実物同様に線路幅を狭くした規格だ。

しかし、カトーの発想は違った。レーティッシュ鉄道の1000mmは日本の鉄道で一般的な1067mmに近い。日本規格の「1/150・9mm」という考え方なら、線路を共用できる既存のNゲージユーザーもそのまま楽しめる。「それこそ山手線の模型つくるのと同じでいけるじゃん、と思った。何も悩まず、特に協議もしませんでしたね」と関さんは語る。

海外モデルを日本で企画した理由とは 

「KATO」ブランドの鉄道模型は、国内向け製品の企画・販売をカトー、製造を関水金属が担当する形で生産されている。だが、カトーが企画するのは日本型車両の模型がほとんどで、海外車両の模型の場合、米国向けは現地法人の「KATO USA」、欧州向けは現地の代理店の企画で関水金属が製造し、現地法人や代理店が買い取るのが一般的だという。

そんな中で「氷河特急」はカトーが企画した製品として、新幹線など日本型車両の模型と同様に日本の店頭に並んだ。「うちでリスクを取り、外国の車両を自前のラインナップとしてやるのは非常に珍しい」と関さんは話す。「1/150・9mm」での製品化は、海外代理店の企画ではなく自前の製品として発売したからこそ実現したといえる。

「氷河特急」の製品の狙いは、日本国内向けとしては「既存のラインナップとは毛色の違う、狭いスペースで楽しめる模型」という点だ。実物がカーブの多い山岳鉄道ということもあり、「氷河特急」は一般的なNゲージ車両の半分程度の急カーブを通過できる設計となっている。

すでに鉄道模型を楽しんでいるユーザーには狭いスペースで走らせられる点が受け、これまで鉄道模型に馴染みのなかった人には、華やかなデザインの「有名列車の模型」として人気を呼ぶ結果となった。

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