なぜエアバスは日本政府に激怒しているのか 不透明すぎる日本の防衛調達の問題点

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UH-Xのプロジェクトチームは否定するが、恐らくは陸幕はオスプレイやAAV7といった高価な買い物をしたために、予算が圧迫されてUH-Xの開発、調達コストを極力低減したかったのだろう。だが、わが国のヘリ産業の将来を見据えれば、どちらを選択するべきかは、自ずと明らかだろう

だが結論は「開発コストが想定よりも安くて、早いものがいいです、輸出や民間市場での売り上げは大して期待しません」というものであり、エアバス側にしてみれば話が違う、2階に上がってハシゴを外されたように思うのは当然だろう。9月7日エアバス・ヘリコプターズのCEO、ギョウム・フォーリ氏が来日、記者会見を開き、少数の航空・防衛記者を招いて緊急の記者会見を行った。このときフォーリ氏は慎重に言葉を選び、その発言には直接的に日本政府を非難するものはなかったが、日本政府や防衛省に対する不信感が強くにじみ出ていた。

恐らく日本側の当局に悪意はなかったのだろうが、政府や防衛省、経産省、陸幕といった内での明確な国家戦略が共有されていなかった結果だろう。だがエアバス側に不信感を持たれ、始めから政治的な配慮で米国製が選ばれていたと勘ぐられても仕方あるまい。

アンフェアな入札を続けると大きな損失に繋がる

米国以外のメーカーや政府から、日本政府や防衛省は、米国や日本企業に過度に配慮したアンフェアな入札を行うという見方が定着すれば、損をするのはわが国だ。入札を行ってもどうせ単なるセレモニーで、落札者が決まっており、「当て馬」であることがわかっていれば、応札する企業はいなくなる。そうなれば実質的に競争のない随意契約となり、好条件を引き出すこともできなくなる。競争があれば先の練習機商戦で、富士重が何割も価格を下げたようなことが起きる。逆にそれがなくなれば、コストは下がらないし、有利な条件を引き出すこともできなくなる。

またつねに米国企業を供給先、提携先に選べばわが国の防衛を基本的に米国に握られて、米国の言いなりにならざるを得ず、米国に対する外交的・軍事的な発言権が制限される。それは外交的にも安全保障上でも大きな損失であり、国益を大きく損なう。

安倍政権は今後、武器輸出の解禁の目玉として、欧州との国際共同開発に力を入れているが、そのようなプロジェクトからわが国が意図的に外される可能性も出てくる。さらには不効率で、防衛予算に寄生してコスト意識の乏しい、わが国の防衛産業の悪しき体質を温存することにもなる。

防衛装備の調達に関しては、確固たる国家戦略を持ち、また透明性を確保することが必要である。そうでなければ結果としてわが国は不要に高い装備を米国から調達し、また不効率な防衛産業を温存することになる。防衛費に占める装備調達予算は年々減っており、右肩下がりだ。このまま戦略なき不透明な防衛調達を続ければ、防衛省に寄生するしか能がない防衛産業は、やがて自滅をすることになるだろう。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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