10分1000円のナゾ《それゆけ!カナモリさん》

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 消費者にとっては、時間をかけてより良いものを選んだり、料理をしたり、楽しんだりする行為は、贅沢なことになってきている。スローライフはコスト高なのだ。「機会費用」という以前なら経済学を学んだ経験のある人ぐらいしか知らなかった概念が、一般的に浸透し、ちょっとでも時間を無駄にしようものなら、「おれの貴重な時間を返せ」と吠える輩もいる。ファスト化する社会というが、ファスト化しているのは社会や制度などシステムの方ではなくて、実は、私たち自身なのかもしれない。

ちなみに、シチズン時計が2010年に発表した調査で、「あなたの1時間、お金に換算するといくらぐらいの価値があると思いますか?」という問いに対し、“肉食系”の人々の平均は約5000円、“草食系”の人々の平均は約2800円だった。経年変化の数字はないが、ひょっとすると、ライフスタイルや趣味嗜好の差による、時間感覚の差が、大きく開き始めているのかもしれない。

「時間」という視点から、市場や消費者を分析したり、財やサービスの値段を考えてみると、色々と面白いことが見えてくる。

ちなみに経営学の世界では、標準的な内容に対して業界相場(ここでは10分=1000円)でサービス提供をすることを、「中価値戦略」という。もっと高い価格を設定したい場合には、何らかの価値を上げ、「プレミアム戦略」を取る必要がある。美容業界なら、いわゆる「カリスマ美容師」的な人が担当するなら、10分1000円の相場を上回るプレミアム価格となる。 一方、業界の相場価格である「中価値」を下回る価格で、サービスの質も下げて提供することを「エコノミー戦略」という。しかし、比較的割安な価格で業界相場が「中価値」に集中している場合、その戦略は顧客が魅力を感じないため成立しがたい。

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