北京世界陸上「日本惨敗」の責任問題を考える このままでは2020年東京五輪も危うい

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宗猛コーチ(男子中長距離・マラソン部長)は、今井の欠場が決まった時点で“惨敗”の予感を察知していたという。「今井がギリギリ8位、藤原の力からすれば16~18位、前田が26~27位ぐらいに入れればという読みだったので、結果としては少し悪いくらいです。あくまで私見ですが、暑さに対する適応力は今井を10とすれば、藤原は6、前田は3ぐらいでしたから」とコメントした。

この話を聞いたときに、夏のマラソンを戦うのに、冬のマラソンで代表選手を選考することはナンセンスだなと感じざるをえなかった。勝負できないとわかっている選手を派遣することになるからだ。

「世界との力の差はすごく感じましたよ。これをどう埋めていくのか。現状の中で勝負していくのは厳しい。いちばんは若手への期待。若くて勢いのある選手がマラソンに挑戦して、その中から暑さに強い選手を選考できれば、戦える余地はあると思います。東京五輪は若手に期待したい」

こんな宗コーチの言葉を聞いて、少しは淡い期待を抱いたが、その日の夜には再び、絶望感に襲われた。男子1万mに3人の若者が世界に初挑戦したものの、無様な結果に終わったからだ。

22歳の村山謙太(旭化成)が29分50秒22の22位、23歳の設楽悠太(Honda)が30分08秒35の23位。村山と設楽はダントツの最下位争いを繰り広げて、ともに上位選手に2周差をつけられた。25歳の鎧坂哲哉(旭化成)は28分25秒77の18位とまずまずまとめたが、優勝したモハメド・ファラー(英国)は27分01秒13。暑さと序盤スローペースの中で、日本記録よりも30秒以上速いタイムを刻んでいる。それだけ世界と日本勢には実力差があるということだ。

ちなみに男子マラソンを制したのは無名の19歳、ギルメイ・ゲブレスラシエ(エリトリア)だ。日本でいえば大学2年生と同世代。レースがスローペースになったため、優勝記録は2時間12分27秒と伸びなかったが、35㎞から40㎞の5㎞を14分53秒で突っ走り、栄冠を手にしている。5年後はまだ24歳。このままで日本勢が太刀打ちできる要素があるとは少しも感じることができなかった。

「惨敗」の責任は誰が負うべきなのか?

冒頭の「メダル2、入賞6」という目標は、春の段階で日本陸連・原田康弘強化委員長が掲げたものだ。特に修正されることもなく本番を迎えて、そして“惨敗”した。強化委員長という役職は、サッカー代表でいえば「監督」と同じ。その原田強化委員長は、大会後の総括でこんなコメントを残している。

「国民に期待されている中、このような結果で申し訳なく感じています。世界的なレベルが高くなっていることを考慮して、軌道修正をしていくべきだと感じました。この成績では、来年のリオ五輪は楽観視できません。ナショナルチームでの取り組み、医科学との連携については、しっかりできたと思いますが、今回の戦略、戦術については、今後の強化委員会で精査していきたい」

“原田ジャパン”は2013年春にリオ五輪を最大のターゲットに発足されたチームだ。しかし、本番を1年後に控えた北京世界選手権でまったく結果を残すことができなかった。「監督更迭問題」が起きないのが不思議なくらいである。本人もそのことについては特に触れていない。では、今回の「惨敗」ついては誰が“責任”を負うべきなのだろうか。

普通に考えれば、原田強化委員長がまずは責任をとるべきだろう。だが、ここにも問題がある。役職的に言えば、強化のトップであるが、サッカー代表監督のようにプロフェッショナルな職業とは言えないからだ。現在のサッカー日本代表監督を務めるバヒド・ハリルホジッチは今年3月に2018年W杯ロシア大会を見据えたオプション付きで、推定年俸200万ユーロ(当時のレートで約2億6000万円)の2年半契約を結んでいる。

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