日本経済が長期低迷した根本的な原因とは

バブル崩壊からデフレまでを一気通貫で解説

日本経済が長期にわたって低迷し続けた根本的な理由とは(写真:まちゃー/PIXTA)

ミクロ的分析が中心真因は生産性の低迷に

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評者は大学で現代日本経済を教えている。新学期が始まるたびに悩むことがある。よいテキストがないことだ。何冊か試行錯誤的に使ってみたが、学生に薦めることができる教科書はなかった。バブルの発生と崩壊、バブル後の金融危機、デフレ問題など、個別のテーマに関しては優れた分析や本があるが、全体を見通せる好著はなかった。本書はバブル崩壊から現在に至る「失われた20年」を取り上げており、期待して読み進めた。

著者は「バブル崩壊後の1990年代における不良債権問題に対する処理の遅れが、2000年代に生産性の伸び悩みやデフレ現象につながったという連続性に注目することが、日本の長期低迷の真因を探るうえでカギとなる」と指摘する。ポイントは、日本経済の問題は高い生産性向上を達成できなかったことにあるということだ。生産性向上は企業の設備投資や技術革新によって達成される。だが、企業はバブル期の遺産として三つの過剰(債務、雇用、設備)を抱え、設備投資も減価償却内の更新投資に終始した。銀行も不良債権処理と自己資本比率維持のために“貸し剥がし”をする一方で「ソフトな予算制約」のもとに“追い貸し”をしてゾンビ企業の温存を図った。それが生産性向上を停滞させた。

もう一つの「失われた10年」では「企業のバランスシートが大幅に改善したにもかかわらず、これまで以上に生産性の低迷や企業の国際競争力の低下が顕在化」したと指摘する。企業収益の回復は主にリストラとコスト削減によるもので、ここでも企業はR&Dを含め積極的な設備投資を行わなかった。それどころかバブル崩壊後の金融逼迫を経験した企業は膨大な額の内部留保を積み上げていった。さらに著者は、名目賃金の下落と途上国との価格引き下げ競争が日本経済のデフレに拍車を掛けたと分析する。

日本経済の構造的な問題に対して、金融財政政策の対応は、あまりに少なく、あまりに遅かった。「金融政策がもう少し迅速で大胆に運営されていれば、日本経済の低迷はより軽微」であり、「財政赤字の拡大が、すでにわが国のマクロ的な資金フローを歪める形で、日本の潜在成長力を大きく低下させた」と指摘する。本書の特徴は、銀行の貸出行動などミクロ的な分析をベースに行っていることである。

コスト削減を可能にした労働市場の規制緩和など重要な政策分析が抜け落ちている。また対策として「抜本的・構造的な対応」が必要だという表現も陳腐であるが、ミクロ分析を中心に優れた参考文献であることに揺るぎはない。

著者
福田 慎一(ふくだ・しんいち)
東京大学大学院経済学研究科教授。専門はマクロ経済学、金融。1960年生まれ。東大経済学部経済学科卒業。米イェール大学大学院博士課程修了。イェール大学でPh.D.を取得。著書に『価格変動のマクロ経済学』、共著書に『マクロ経済学・入門』など。

 

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