紀伊国屋の「春樹本買い占め」に潜む問題 ネット書店への対抗策は消費者にも痛手か

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どんな場合に独禁法違反となる可能性があるだろうか。

「紀伊国屋書店の狙いは、ネット書店への対抗措置として、ネット書店に村上春樹さんの新刊を流通させないことにあるようです。

この目的を実現するために、紀伊国屋書店が出版社に対して、『初版のほとんどを紀伊国屋書店に販売しなければ、今後、取引において不利益な取扱いをする』旨を示すなど、出版社の事業活動を『拘束』する条件をつけて、ネット書店へ販売しないようにさせていた場合には、独禁法上問題となる可能性もあると思われます。

具体的には、不公正な取引方法の一類型である『拘束条件付取引』などに当たる可能性があります」

書籍には「再販売価格維持」の例外があるが……

そうした条件をつけて取引することが、なぜ独禁法上禁止されているのだろうか。

「独占禁止法は公正で自由な競争秩序を保護するためにあります。出版社の事業活動を拘束する条件をつけて取引することは、そうした公正な価格競争に影響を及ぼす可能性があるからです」

だが、書籍については、再販売価格維持制度があるため、もともと価格競争が存在しないのではないか。

「そうではありません。本来、商品の値段を設定するのは小売店の自由です。商品を供給する側が価格の指定することは、再販売価格の拘束として、独禁法違反となります。書籍については例外として、再販売価格の拘束・維持のためにする正当な行為には独禁法を適用しないという適用除外規定があります(独禁法23条4項)。

ただ、この規定は、あくまで書籍の定価販売の義務付け(再販売価格の拘束)に了解した当事者間で、それを含む契約等をしても独禁法違反とならない旨を定めているだけです。ですから、ネット書店が、定価販売の義務付けを含んだ契約をしていなければ、ネット書店に対して定価販売を義務付けることは、そもそもできません」

書籍の市場にも価格競争はあるのだろうか。

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