松下幸之助は、どう客をもてなしていたのか 熱意・誠実・素直さは、成功のトライアングル

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するとお客さまの後ろ姿が見えなくなった途端に、すっと空気が抜けるようになってしまったのである。そして「しんどい。わしゃ、帰る」と言ってすぐに帰っていった。

後に聞いてみると、「お客さまと約束をしてあるのだから、お客さまにほんとうに満足してもらえるようにせんといかん。わしが身体を壊しているということは、相手には何も関係がない」

自分が約束をしたから相手は来てくれているのであって、せっかく来てくれた人に中途半端なもてなし方をするのはよくないことだ、という話を聞かせてもらった。

松下が成功を成し得た3つの理由

私は先に、松下が成功した理由をひとつに限って挙げよと言われたら、それは「熱意」であると述べた(第2回記事)。しかしもう少し制限を緩めていただけるならば、「熱意」に加えて「誠実さ」「素直な心」の3つを挙げたいと思う。松下の振る舞いは、いつも熱意というものを頂点として、それを素直な心と誠実さが下支えしていたように思う。言ってみれば、これは成功へのトライアングルである。

もっとも、実際にはどれがどうとは言えないほど、この3つは不可分のものである。素直に考えればやはり熱意が大事だということになってくる。熱意を持って行動していれば、誠実さの大事なことが実感されてくる。誠実になればなるほど、ますます熱意が湧いてくるし、素直な心にならなければ駄目だとわかってくる。

そしてこの3つを挙げることは、一般的に語られる成功への技術や方程式に比べると、いささか平凡、かつ抽象的に感じるかもしれない。たとえば、能力が入っていない。あるいは、知識が入っていない。

しかし、素直な心で熱意を持って誠実に取り組めば、能力は自ずと引っ張りだすことができる。知識や情報は自然に集まってくる。知恵が生まれてくる。実行が生まれてくる。反省する心も生まれてくる。

熱意と誠実と素直。だまされたと思って、ためしにその三角形を胸に抱きながら仕事に取り組んでみてはいかがだろうか。周囲の反応が変わり、仕事の成果が変わることを、必ずや実感できるはずである。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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