(第75回)休みについて考える(その1)

山崎光夫

 有給休暇を消費しないと叱られる会社がある。休暇をとらずに働いていると休むように勧告を受けるという。
 普通、会社は社員に一生懸命働いてほしいのだが、一方で、労働基準法もあって休暇をとらせようとする。
 法律はさることながら、働きづめでいるより適度に休みをとったほうが疲労はとれ、能率も上がる。労働再生産の観点からも休養は重視される。

 「よく学び、よく遊べ」ではないが、「よく働き、よく休む」ほうが効率的。しかも健康維持に寄与し、また、愛社精神も育まれ一石三鳥の効果が期待できる。会社への忠誠心こそ最大の財産であり、武器となる。

 「休」の字は、人が木の陰に入って休むという意味をこめた会意文字。いつまでも炎天下で働いていては体に支障をきたすのは必定。木の陰に入って休憩をとるのが、「休」本来の意味といえる。

 企業にとって、社員に2~4日の短期休暇を勝手に、しばしばとられるほうが、長期休暇をとって休まれるより困るという。特に、うつ病による、“ちょこちょこ休み”が最もダメージを受けるらしい。いっそ長期に休まれたほうが当てもついて、人員の配置に対応できる。
 これが契約社員なら、態度不良でクビにすればいい話だが、能力のある社員や重役が、急に、しかも何度も休まれると業務や収益に悪影響を及ぼす。

 ある健診センターの所長を務める内科医は、休暇の取り方において銀行方式をすすめる。

 「銀行は行員に休暇をとらせる際、1週間以上の休みをとるようにすすめています。どうせ休みをとるなら、そういう休暇のとり方が理想的です」

 銀行では最長何日と上限はあるものの、最低1週間は休みをとらせているという。福利厚生に充実した銀行ならではの方針である。

 これはいわば、“銀行休暇”といえそうだ。

 行員の多くは最近の円高もあって、海外旅行に出掛ける例が多いという。優雅といえば優雅ではある。

 この傾向を先ごろ銀行を退職した知人に話してみた。

 「確かに行員の休暇は1週間以上の長期が設定されています。これは普段ストレスまみれ、緊張の連続を強いられている行員にゆっくりと休んでもらうためですが、別の目的も秘めています」

 別の目的とは、休暇をとっている当の行員の勤務実態のチェックだという。

 銀行事務の多くは、以前は紙の作業だったが、昨今のIT機器の導入で仕事内容が見えづらくなっている。使い込みや不適切経理処理、杜撰融資など、不正行為を見逃しやすい。現代はそういう危うい時代。そこで、長期休暇をとらせ、その間に行員の勤務実態を検査する。サイクル上、1週間休むと不正が露呈する項目もある。

 これは金融界特有のスタイルといえるが、労働再生産のための休みの形式や内容はさまざまあるようだ。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』『二つの星 横井玉子と佐藤志津』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。

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