新国立競技場計画を迷走させた「5人の男」 すったもんだの末、白紙撤回

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「白紙撤回なら基本コンセプトから見直すのが筋だ。時間がないというだけで本質的な議論をあいまいにするのはおかしい」

自民党行政改革推進本部長の河野太郎は指摘する。

「アスリートファースト」出たのは最近

1550億円にしたことで床面積は13%減の19.5万平方メートルになった。それでもロンドンやシドニーの2倍近いのは変わらない。旧計画の白紙撤回を政治判断した首相の安倍晋三は、8月の関係閣僚会議で「アスリートファースト」を強調した。そんな言葉が出るほど、これまでは競技に励む人たちの声は届いていなかった。元東京都副知事の青山やすし(※)は言う。

「旧競技場は、五輪スタジアムで競技した手応えと誇りを、全国の子どもたちが味わえる場として、スポーツ文化を育んできた。その伝統は大事にすべきです」

トップアスリートや協会役員ではなく、草の根のスポーツ人口の底上げに競技場を使うなら、VIP席や宴会場はいらない。だが19.5万平方メートル、1550億円という規模は「多目的スタジアム」の構想を捨てていないように映る。

そもそも、建設費は1550億円に収まるだろうか。

内閣官房の資料によると、スタジアム本体1350億円、人工地盤や空中歩道など周辺整備が200億円、合計1550億円となっている。ただ、いずれの数字も「程度」という言葉が付け加えられ、あいまいさを残している。

「デザインや設計が決まっていない段階で出せる数字は、目安でしかない。政府の事情で削った分だけ業者のリスクは高まる」

建築関係者は打ち明ける。ギリギリまで粘って白紙撤回になっただけに工期もギリギリだ。震災復興などの工事が重なり、資材費も人件費も高騰している。さらに、内閣官房の資料をよくみると、関連経費という項目が別に計上されている。計283億円。これらを1550億円に足すと、実際の費用は1833億円になる。

内訳はこうだ。設計・監理等40億円、解体工事費55億円、日本青年館・JSC本部棟移転経費174億円、埋蔵文化財発掘調査費14億円。これらは何を指すのだろうか。旧競技場南側の代々木門近く。ホテルやコンサートホールを備えていた日本青年館もその姿を消した。2年後、100メートル南に場所を移し高さ70メートル、16階建てに生まれ変わる。

実はこの建て替えこそ、永田町界隈で「五輪便乗焼け太り」といわれる案件だ。

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