ヨーロッパは「鉄道テロ」とどう戦っているか 日本も備えをしなければ大変なことになる

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多くの乗客で賑わうパリ北駅。大きな荷物を一つ一つ検査することは難しい

その後、コインロッカーは順次再開されているが、欧州最大規模のパリ北駅では、コインロッカー入り口にX線検査装置が設置された。ゴミ箱は、日本と同じように透明で中身が見えるようなタイプを設置している国が増えたが、ゴミ箱の数そのものが減った印象を受ける。

また監視カメラの設置数は、この10年のうちに飛躍的に増えた。ロンドン市内は、2005年のテロ事件があったこともあり、オリンピックの行われた2012年までの間に、死角がないほど隅々まで監視カメラが設置されたが、常に監視されているようで、安全のためとはいえ、決して評判は良くない。

日本での有効な対策は?

それでも、列車内に関しては限界がある。空港と異なり、駅には通常、金属探知機やX線検査装置を使った手荷物検査はないので、その気になれば、出発前の列車内へ危険物を持ち込むことも容易だ。では、これらの検査装置をホーム手前に設置すれば良いのかと言えば、それは難しい問題で、まず日本のような改札口がほとんどの駅にはなく、乗客以外でも自由にホーム内まで入ることができる欧州では、航空機のようなセキュリティエリアで仕切られた場所を作るスペースがない。

 それ以前に、そもそも鉄道の利点とは、航空機とは違って、いつでも気軽に利用できる点であり、仮にセキュリティエリアを通って列車に乗るまでに長い時間を過ごさなければならないとしたら、その一つの利点を損なうことになる。

ユーロスターの発着駅、ロンドン・セントパンクラス駅。ユーロスターへ乗車するには、航空機と同様のⅩ線検査や出入国審査を通らなければならない。駅構内は、警察が常に巡回してしている

実際、ユーロスターやスペインのAVEなどでは、改札口を設けて、こうした手荷物検査が行われているが、発車時間のかなり前に駅へ行かなければ列車に乗り遅れる恐れもある。

ユーロスターに関しては、検査と同時に出入国審査も行われるため、発車時刻の30分前には改札口を閉められてしまうが、この改札終了時刻は開業当時20分前まで可能だったものが、9・11以降検査が厳しくなったことで、30分前へ変更されている。ホームでの見送りもできないユーロスターは、もはや鉄道より航空機に近い印象だ。

日本の鉄道はどうか。乗降客数が欧州の主要駅と比較して桁違いに多い首都圏で、手荷物検査を行うことはまず不可能だし、さらに専用改札で仕切られた新幹線でも、乗客数からして無理だろう。結局、鉄道でテロ対策をしようとなると、警備員の数を増やして警戒にあたるか、監視カメラの数を増やす以外に、有効な解決策はない。

今回のテロ未遂事件を受けて、欧州各鉄道会社は特に警戒を強化しているわけではなく、これまで通り警備員の巡回を行っている程度である。前述のとおり、常にテロの可能性がある欧州各国だが、全ての列車ではないものの、警備員や警官が二人ずつ乗車して見回りをしている姿を目撃するし、パリの大きい駅では9・11以降、3人の兵士が自動小銃を構えながら、陣形を組んで歩いている姿を必ず見かける。オーソドックスな人海戦術こそが、一番効果的なテロ対策と言えるのかもしれない。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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