TBSドラマの「問題演出」は、なぜ起きたのか 裏には「下請構造」と「甘いチェック機能」

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下請の制作会社やスタッフに制作プロセスを委ねることが問題なのではない。放送をするTBSがきちんとチェックをしているかが重要なのである。TBSにはコンプライアンス室というセクションがあり、報道出身の優秀な人たちがそれなりの立場にいる。彼らが事前に今回のシーンを見ていたら何らかの手を打っていたように思う。ところが現実にはそうはなっていなかった。今後も、社内のチェック体制が機能しないのであれば、重大な権利侵害など取り返しのつかない事態を招く可能性もある。

『SP八剱貴志』は、ブルーリボンバッジ以外にも危なっかしさのあるドラマである。善玉で「子どもたちのために」と福祉施設の充実ばかり主張する“理想論”を唱える現職知事と、悪玉で大きな公共工事で景気を盛り上げようという現実派の前知事で収賄をした衆議院議員という対決構図になっているのが、イメージの上では実際にいる政治家や政党を想起させる作りになっていた。私など寺田農とある与党政治家を二重写しにしてこの番組を見た。

報道圧力を呼び込むことになりかねない

この程度は表現の自由といって突っぱねられる範囲、との意見もあるだろう。しかし今、テレビ局はひとたびミスをすると、それを口実に政治から口を出されかねない厳しい環境にいることを忘れてはならない。つい数カ月前、自民党がテレビ朝日とNHKの経営陣から聴取したり、若手の自民党議員らが「報道圧力」を公言したりしたのは記憶に新しい。現在の政権与党は「間違い」や「問題」がある放送をした局を見つけ出したら、これ幸いと放送局への介入してくる可能性が高い。

それでなくてもTBSは政権や与党から睨まれているとみられており、もし多くの国民の反発を買うような不祥事が起きたら、それこそ飛んで火にいる夏の虫。ここぞとばかり圧力を掛けてくることは間違いない。

とくに今は、テレビ番組の制作者たちはしっかりと脇を締め、緊張感をもって仕事をしなければならない時期だ。いったん政治に手を突っ込まれてしまえば、報道まで自由にできなくなりかねないのだから。

水島 宏明 上智大学文学部教授

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みずしま ひろあき / Hiroaki Mizushima

1957年生まれ。東京大学卒業。札幌テレビ放送入社。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー 『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレク ターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。「ネットカフェ難民」の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授、2018年から現職。

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