みんなが「得を感じられる」政策こそが必要だ!--行動経済学からみた年金問題の解決法

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遅ればせながら導入されたのが、マクロ経済スライドだ。これは人口動態であれ何であれ、制度の維持が将来困難になるという見通しが立ったら、その分、現在からの給付を少しずつ減らす、という仕組みだ。これだけ聞くと理論的にはパーフェクトだし、厚労省の官僚も、それを支持した学者もそう思っていた。実際、私は著名な年金学者との勉強会で「マクロスライドで、実は年金問題はすべて解決したんです。世間はみんなわかっていない」という説明を受けた。

しかし、彼はわかっていなかった。その仕組みがたとえ彼の思うように完璧な仕組みだったとしても、皆がわかっていなければ、意味がないのだということを。期待値マネジメントには何の役にも立たないということを。だから、2004年の改革は失敗だったのである。

さらに、始末が悪いのは、改革の方向性が、政治的に圧倒的に難しい方向にあることだ。。年金以外の政策の場合なら、猛反対をしそうな人々は優遇して、声の小さい人、声を上げない人が不利になるようにして、政策を通そうとする。それが基本だ。つまり、痛みを広く薄くし、またもともと政治的な影響力の小さい都市部の若年層に負担(損)を負わせればいい。

しかし、年金の場合は、コンセンサスとして、現行制度の下では、既に給付を受け始めている受給者がもらいすぎており、一方、現在払い込み義務のある人は払い込みに見合った給付がもらえる見込みが立っておらず、しかも、若い世代になればなるほどより不利である、という認識が確立している。
 
 したがって、まともに改革すれば、今毎月年金をもらっている人が、現状よりも悪化する一方、将来にわたりまだ実感の薄い負担をすることになっている(現在も負担しているが、それはまだほんの一部に過ぎない)30代の人々を中心に改善することになる。

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