厳しくしすぎれば、「何も食べられなくなる」 組み換え食品を特別視するべきではない

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また、遺伝子組み換え作物の申請には、気の毒なほどの書類が必要。その結果、大企業でなければ申請できないレベルになってしまっている。費用もかなりかさむ。

――国による遺伝子組み換え農作物や食品の審査は、企業が提出したデータに基づいて行われる。改ざんなどの問題が起こる恐れはないのか。

手前の赤いものは、遺伝子組み換えの大豆の種

GLPという、試験をする上で満たさなければいけない規格があり、その基準を満たしたデータでなければ受け付けないという管理基準がある。このシステムは改ざんするほうが大変。一カ所何か変えようと思うと、整合性が取れなくなる。たとえば部屋に入ったのは誰で、何時に実験の記録を取ってということを自動的に記録する。体重計などの計測器などもコンピュータにつながっていて、マウスを乗せたら記録される。ものすごいおカネがかかる。

国がやろうとすると、いくらおカネがいくらあっても足りない。その費用を消費者に負担させ、税金でやるとなったら逆にとんでもない話になってしまう。

組み換え表示の優先度は低い

――現在、遺伝子組み換え作物を使用する食品には表示義務があるものと、ないものがある。遺伝子組み換え技術に対して不安を持つ消費者も多いが、いまの表示制度は十分か。

表示には安全性のためのものと、消費者に情報を与えるためのものがある。どうしても必要なのは前者で、アレルギーなどがそうである。製造者や産地などの情報は、消費者の知りたいという要望に応えるための表示。面積に限りがあるので優先順位をつけなければいけないが、遺伝子組み換えかどうかというのは、気にする人が一部いるだけなので、優先順位としては低い。

遺伝子組み換え表示義務がない油やしょうゆ等に関しては、製造過程で作物の遺伝子が消滅してしまうので、仮に表示をしたとしてもそれが正しいかどうか確かめる方法がない。検証できないものを商品差別化のために表示することが、誰のメリットになるのかわからない。嘘でもいいということになり、何とでも書けてしまう。遺伝子組み換え飼料を食べていない牛です、というようなものもあるが、これも検証のしようがない。

――環境に対する遺伝子組み換え技術の影響は。

何を守りたいかがはっきりしないと、影響評価は難しい。私の専門ではないが、たとえば有機農業は畑の中の虫の数が多くなるので、環境にいいという人たちがいる。でも“環境”の基準を畑の中と外、どちらに置くかでも話は変わってくる。たとえばある農地の半分の敷地で、近代的で高度な技術を使った農業をやり、半分を放っておけば、農地全体で有機農業をやった場合よりもはるかに虫の数は多くなる。農業自体が環境破壊なのだから。こういう場合の評価はどうするのが適切なのか。有機農業のほうが収量は減るので、より多くの耕作面積が必要になり全体として環境への影響は大きくなる可能性がある。

田野 真由佳 東洋経済 記者

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たの まゆか / Mayuka Tano

2009年に大学を卒業後、時事通信社を経て東洋経済新報社に入社。小売りや食品業界を担当し、現在は会社四季報編集部に所属。幼児を育てながら時短勤務中。

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