遺伝子組み換えなくとも「十分な食糧ある」

作物の技術進歩、どう向き合うべきか

「この技術を受け入れることは到底できない」と話す久野教授
「遺伝子組み換えでない」。食品の原材料表示欄に、こんな言葉を見たことがある人も多いだろう。日本では遺伝子組み換え作物の商業栽培実績はほとんどないが、輸入は相当量していると推定されている。その名のとおり人為的に遺伝子を組み換えることに抵抗を持つ消費者も多いが、あらためてその是非を、国際農政論が専門の京都大学大学院・久野秀二教授に聞いた。

 

――久野先生は、遺伝子組み換えという技術は必要ないという立場だ。

この技術の話は、食べて安全かどうかだけではなく、環境にどういう影響をおよぼすのか、社会経済学的な側面からどうなのか、それぞれきちんと見る必要があると思う。

技術開発を頭から否定するつもりはないが、そもそも論からいえばこの技術は必要ないのではないか。もちろん干ばつに強い、冷害に強いなど夢物語はたくさんある。そんな作物が開発されればそれはいい。誰も反対しないと思う。ただ実用化にはまだ程遠いし、ほかのやり方がないわけでもない。それでも農業生産者にメリットがあるならばいいじゃないかと言われるが、そこでも疑問が出ている。世界の食糧安全保障に役立つという主張もあるが、これも疑問が出ている。

農業に必要なのは品種だけでない

世界中の人口を養ってあまりあるだけの食糧は十分にある。かなりの部分は家畜の餌になっているし、捨てられているものもある。クルマの燃料にさえ使われている。遺伝子組み換えのトウモロコシも大豆も、大部分は人間が食べるものではない。

もしアフリカの食糧問題を解決しようと思ったら、トウモロコシや大豆ではなくて、多様なアフリカの作物を品種改良すると同時に、生産を安定的に増やすための環境も整えてやることが必要。アフリカの生態系は複雑だし、農業をするには厳しい条件の地域が多い。そうした環境に適した在来作物がたくさんあるのに、十分な改良が施されてこなかった。

また、アフリカの多くの国が内戦や自然災害、構造調整プログラムのような間違った開発政策によってガタガタにされてしまった。だから農業生産を安定的に行う条件が整っていない。

農業というのは、GとE、さらにはMやPとの掛け合わせだ。Gとは遺伝形質、つまり品種改良。けれど実際の農業生産は品種だけでは決まらない。E、環境が必要。Mはマネジメント、Pは人のこと。先進国型の農業を前提に開発された品種、条件の整った実験圃場で選抜した品種を、複雑な生態系(E)や実際の栽培体系(M)のなかで、さまざまな条件をもった生産者(P)の手で栽培してはじめてその真価が問われる。EやM、Pを考慮に入れないGだけの技術開発は無意味だ。

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