”パナソニック”が、中国攻略へ本格始動

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 当然、こうした中国の生活習慣を熟知した現地メーカーの作る商品は、使い勝手がよくなる。一方、日本メーカーは、日本国内で企画・発売した商品をそのまま中国市場に導入するケースが往々にしてある。しかし、それでは現地のニーズを満たしきれるわけがない。
 
 松下の中国・冷蔵庫事業の責任者、松村紀男・無錫松下冷機総経理は言う。「日本で長年培ってきた技術力には絶対的な自信があるが、必ずしも技術だけでヒット商品ができるわけでもない。中国でヒット商品を作るには、中国の消費者ニーズを的確につかんで、それを素早く実際の商品につなげる作業が必要だ」。
 
 そうした問題意識から、松下が05年に立ち上げたのが、「中国くらし研究センター(くらし研)」。くらし研の担う役割は、中国の家庭を実際に訪問するなどして、家の広さから白モノ家電の設置場所、使い方、習慣など生活の様子を細かく調査し、そこで集めたデータを実際の商品企画に役立てることだ。現在、くらし研には6人の中国人研究員がいて、彼らが訪れる家庭の数は、実に年間400件にも上る。
 
 設立時から2年間で蓄積したデータが、すでに昨年発売した商品に反映されている。その代表例が、冒頭で紹介したスリム型冷蔵庫だ。
 
「横幅55センチの冷蔵庫を出せば確実に売れます」--。ヒット商品誕生のきっかけは、研究員からの提案だった。中国の一般家庭では200リットル台の冷蔵庫をリビングやダイニング、玄関など台所以外の場所に設置している家庭が4割弱もあることがくらし研の調査でわかった。横幅55センチという寸法は、くらし研が収集したデータを分析し、どの家庭でもキッチンに設置できる横幅として導き出したサイズだったのである。
 
 実は、「くらし研発」のヒット商品は、スリム型冷蔵庫だけに限らない。昨年秋に日中同時発売した、「除菌機能付きななめ式ドラム洗濯乾燥機」もその一つ。同商品に搭載された光Agイオン除菌の機能は、くらし研の調査が発端だ。

消費者ニーズを満たせば、価格が高くても売れる

 鳥インフルエンザなどが流行したこともあって、今や中国人は日本人以上に菌やウイルスに敏感だ。実際、くらし研の実施した調査でも、衣服の除菌ニーズが高かった。それを受けて松下は、上海交通大学と共同で衣類を傷めずに除菌できる機能を開発したのである。
 
 もっとも、くらし研の三善徹所長は当初、「光Ag搭載モデルは中国で売れないんじゃないか」と半信半疑だった。というのも、中国のドラム式洗乾機の相場は5000~6000元だが、光Ag除菌機能搭載モデルは7200元と、競合商品より2割以上も高い値段で売り出したからだ。が、昨年9月の発売以降、計画に対して2倍以上のペースで売れているという。「高くても、消費者のニーズにきちんと合致した商品は売れる」と、三善所長は自信を深める。
 
 白モノ家電やAV製品、デバイスなど全分野を合算した松下の中国事業の売上高は、06年度実績で約8200億円。07年上半期のような2ケタ成長が続けば、1兆円の大台突破も見えてくる。
 
 しかし、油断はできない。「ハイアールなど地元メーカーの技術的なキャッチアップは速い。松下が新機能の商品を出しても、半年から1年ですぐに同じような商品を出す。だから、つねに先手を打たないといけない」(松村総経理)。さらなる増販の実現には、現地のニーズにマッチしたヒット商品の連打が不可欠。松下にとって中国市場攻略に向けた本当の戦いは始まったばかりだ。
(週刊東洋経済編集部)

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