存続?廃止?瀬戸際の「秘境」小幌駅の運命 日常的な利用者はほぼゼロだがファンは多い

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こうした場合、通常であればJR側から具体的な数字が提示され、自治体がどこまで負担し鉄道側が何をするのか協議していくものだ。だが、小幌駅のケースではJRは元々廃止を前提とした協議だったため、存続に向けた施策に対してどこまで協力が得られるかはわからない。

駅施設以外人工建造物はなく駅前通りもこの通り

仮に豊浦町の管理で小幌駅が存続することになったとしても、その道は険しい。小幌駅のホームは老朽化が進んでおり、存続となれば安全対策上抜本的な改修が必要。小さなホームを作るだけでも営業路線で工事をする場合は立ち会いも必要でコストがかかる。

貨物列車や特急列車が高速で通過するため、安全対策もJR任せというわけにはいかないだろう。岩屋観音への道も、現在は断崖絶壁の上をロープにつかまって越えるような状態で、観光振興を図るなら本格的な安全対策が必要だ。それだけコストをかけて整備しても、停車する列車は1日上下併せて8本しかなく、観光客を無理なく受け入れられる列車は2〜3本に過ぎない。観光客が見込めないどころか、下車するだけで危険の伴う冬期をどうするのかという問題もある。

体験ツアーの企画も

とは言え、豊浦町長は小幌駅存続をあきらめていない。

「小幌駅がある礼文華地区は、明治時代に日本を訪れたイギリスの女性紀行家イザベラ・バードが旅したところで、縄文時代の遺跡も発掘中だ。小幌駅があるからこそ訪れられる場所であり、なんとか存続させて、体験ツアーなどを企画していきたい」(村井町長)

豊浦町が本当に小幌駅を維持管理できるかは不透明だが、JRは可能な限りの情報を提供して協力してほしい。豊浦町の管理運営で存続し、地域振興に少しでも役立てば何よりだし、期限を区切って自治体と十分検討した上で、やはり存続は無理となれば、多くの人が納得するだろう。今後JR北海道は様々な合理化を進めていかなくてはならない状況にある。どれほど利用者が少なくても、沿線住民の信頼を失うやり方は避けた方がいいはずだ。小幌駅の命運の行方に、多くの人が注目している。

栗原 景 ジャーナリスト

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くりはら・かげり / Kageri Kurihara

1971年東京生まれ。出版社勤務を経て2001年独立。旅と鉄道、韓国をテーマに取材・執筆。著書に『新幹線の車窓から~東海道新幹線編』(メディアファクトリー)、『国鉄時代の貨物列車を知ろう』(実業之日本社)等。

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