市場の不透明感は、「濃度」を増している 世界経済の長期停滞懸念も

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米利上げの行方も一段と見通しにくくなってきた。8月の世界同時株安によって、米連邦準備理事会(FRB)のタカ派からも、9月利上げに関し慎重な発言が出てきていたが、フィッシャー米連邦準備理事会(FRB)副議長は週末のジャクソンホールで、9月利上げを排除しない可能性を示唆した。

強気なインフレ見通しを示す一方、中国情勢に警戒をみせ、9月利上げは経済指標次第としたフィッシャー発言について、市場では「これ以上ない両論併記。9月利上げの不透明度は増した」(三菱東京UFJ銀行・シニアマーケットエコノミストの鈴木敏之氏)との受け止めが多い。

世界同時株安で消えかけた9月利上げ観測がやや復活し、ドル/円<JPY=EBS>は121円後半まで上昇したが、日本株が崩れると再び120円台に軟化した。GLOBEX(シカゴの24時間金融先物取引システム)の米株先物も軟調だ。米経済は足元の指標をみる限り悪いわけではなく、だからこその「両論併記」なのだが、市場が一番嫌う不透明感は強まってしまった。

米経済は堅調ながら、世界同時株安が内外の実体経済にどう影響してくるか見極めるのはこれから。多少の円安では、外需回復の期待が高まる雰囲気ではない。トヨタ自動車<7203.T>やソニー<6758.T>など主力輸出株は、31日の東京市場でマイナス。堅調だったのは食品や医薬品などの内需株だ。

見えない問題

上海総合指数<.SSEC>株は3日ぶり反落。前営業日までの2日間で10%反発した反動が出たとみられているが、明日以降、反転基調に戻るかどうか先行きは見通しにくい。「中国が抗日戦争勝利記念日と定めている9月3日の行事に向けて、市場では、株価対策終了への警戒や景気対策発表の期待など思惑が交錯している」(国内銀行エコノミスト)という。

国内外の市場を覆う不透明感が強まる中で、長期投資家は慎重姿勢。31日の東京株式市場では「バリュー投資家は割安感の出た銘柄を買っているが、あくまで打診買いの範囲」(大手証券トレーダー)との声が出ていた。

東証1部売買代金は2兆7460億円。3兆円を超えていた過去6日間に比べ、やや減っただけのようにみえるが、市場筋によると、MSCI定期銘柄入替に伴うパッシブファンドのリバランス需給が、引け前の1分間で約5000億円弱発生したという。実質的な商いは乏しい。

ニッセイ基礎研究所・チーフエコノミストの矢嶋康次氏は「問題が中国や新興国の中に隠れて見えにくくなっている。それはサブプライムのような金融ではなく社会体制であるのかもしれない。政策で覆い隠すことはできるが、そうすれば構造改革は遅れ、世界経済は長期停滞に入る可能性もある。いずれにせよ不透明感は強まっている」と話している。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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