鉄道の防犯カメラ、乗客撮影は合法なのか 「当たり前」になってはいるが…

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駅でもよく見掛けるようになった防犯カメラ、肖像権はどうなるのか?(写真 : Garnett / PIXTA)

2015年6月30日、東海道新幹線を走行中の「のぞみ225号」車内で男性乗客が焼身自殺を図り、男性を含めて2人が死亡し、大勢の乗客が怪我をするという事件が発生した。想定外の新幹線での事件に世間が衝撃を受けたことはいまだに記憶に新しい。

最近でこそ警備員が駅構内に配置されていたり列車内を巡回したりするということはあるものの、手荷物検査などをするわけでもなく、カバンや服に入る危険物であれば駅構内や列車内に持ち込むことは容易と言わざるを得ない。過去には、1995年3月に、列車内に持ち込んだサリンで多数の死傷者を発生させた「地下鉄サリン事件」が起きたことがあった。事件の規模も背景も異なるとはいえ、今回も男性乗客が危険物を持ち込み、事件を発生させることを防ぐことはできなかった。

今回の事件を受けて鉄道での警備体制や防犯体制のありかたが議論されるようになっている。

クリアすべき「肖像権」の問題

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対策の方法として真っ先に挙げられるのは手荷物検査と防犯カメラの活用である。しかし、東海道新幹線でいうと1日の列車本数は300本超、利用者数は42万人超に達する。抜き打ちの手荷物検査の実施はできても、空港のように利用者全員を対象にした手荷物検査は非現実的である。

一方、最近あちこちで設置されるようになった防犯カメラは、設置が容易なだけでなく、「監視されている」という心理的な圧力によって事件発生を抑制することが期待できるほか、不審人物や不審物の発見によって事件や事故の発生を回避でき、万一事件や事故が発生した後には速やかな証拠・被疑者等の確保にもつながるもので、現実的な手法といえる。情報処理対応の可否の問題はあるものの、駅構内はもとより、列車内に設置された防犯カメラと運転指令との間をリアルタイムで情報を直結できれば、危険の感知や除去、事後対応にも効果を発揮することができるであろう。

しかし、防犯カメラの活用に関しては、いわゆる「肖像権」(自分の承諾なくみだりに容貌などを撮影・録画されない権利・自由)の問題が立ちはだかる。

防犯カメラに犯罪抑止や事件・事故発生時の対処に必要という大義名分があったとしても、多くの鉄道利用者は好き好んで自分の姿形を撮影されることを望んでいるわけではない。犯罪抑止を徹底するならば全域を一分の隙もなく撮影するのが効果的であるが、たとえば、駅構内や列車内のトイレ内部など高度に私的な空間まで撮影されることは誰でも嫌悪するであろう。さらには、鉄道事業者がそのデータを無制限に利用したり、他者に譲渡したり、いつまでも所持していることを望む利用者はほとんどいないはずである。

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