日本の観光ビジネスは実利の精神が足りない イギリス人アナリスト、日本を叱る

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無償のおもてなしではなく、儲かるサービスが必要だ(写真:花火 / PIXTA)

観光を活路に描く生き残り経済戦略

デービッド・アトキンソン新・観光立国論 イギリス人アナリストが提言する21世紀の「所得倍増計画」』書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

この本は単なる観光業発展のためのガイドブックではない。日本の生き残り経済戦略を示した必読の書である。

人口成長と経済成長との相関が高い以上、日本は移民の受け入れが必要だが、現状その障壁が高すぎる。であれば、“短期移民”として外国人観光客を増やし外貨を落とさせる仕組みを構築することは不可欠だ。日本は国際協調の観点も踏まえて観光業をリーディング産業として位置づけるべきだと強調する。

日本は気候×自然×文化×食事という好条件に恵まれている数少ない国であり、明治以降、軍事・製造業・技術開発に国力を集中してきたため、観光業の地位は低く、観光後進国にとどまった。「おもてなし」に象徴される、独りよがりでお高くとまって外国人を接遇する発想から脱し、経済的な富を稼ぎ出す実利の精神こそ重要と考える。

いくらストイックに清潔、安全、時間の正確さを売り物にしても、外国人観光客は心底満足していないし再訪しない。文化財の展示における親切な説明、街並みの復元、鉄道利用の利便性の向上、景観の整備、多言語ガイドの充実など、日本にはすべきことがあまたある。

具体的にはコインパーキング・コンビニ・高層ビルで無残に分断された旧市街、クレジットカードさえ使えない駅の券売機、拙劣な多言語の解説書などといったものでいいのか。立ち遅れた観光文化投資を飛躍的に増加させ、適正な料金を遠慮せず徴収するという、本筋に立ったシステム構築があっていい。

そうすれば、訪日外国人数は2030年に8200万人に増大し、わけても欧米の超富裕層を目標にしたマーケティングを強化すれば観光収入が飛躍的に増える。近隣外国人の「爆買い」に右往左往している時ではないと情熱を込めて説いている。

著者
デービッド・アトキンソン(David Atkinson)
小西美術工芸社会長兼社長。1965年英国生まれ。英オックスフォード大学「日本学」専攻。アンダーセン・コンサルティング、ソロモン・ブラザーズを経て、国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工芸社に入社。2010年から会長、11年から現職。

 

中北 徹 東洋大学 教授
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