この地球以外に「生命の星」は存在するのか 夫婦が研究で導き出した「生命の星の条件」

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2011年の私たちの論文のアイデアは、この大気大循環モデルを使って、生命の生まれる星の条件を探っていくというものでした。

冒頭の問いの答えはこの本の中でも紹介されています。読者のなかには、現在の水の量の10分の1、海がつながっておらず、大きな湖が点在しているような「陸惑星」のほうが、じつは現在の地球のような「海惑星」よりも生命が見つかる可能性が高く、生命が生き延びる期間も長い、という結論に衝撃を受けた方もいるでしょう。

実際、2011年に私たちが『アストロバイオロジー』にこの調査の結果について論文を発表する前までは、生存可能な惑星といえば、地球タイプの海惑星、つまり惑星上の水がつながっているものについての研究が主でした。

それが、水の量の少ない「陸惑星」のほうが、全球凍結や暴走温室効果が起こりにくく、環境がはるかに安定している、という結果は、じつは自分たちにとってすら予想を超えたものでした。当初私は海惑星を計算していて、夫が陸惑星を計算していたので、途中で何かの間違いが生じたのかも、と計算手続きを疑っていろいろなやり方で見直しました。そして、米国人の友人ケビン=ザーンレ博士(NASA)とノルマン=スリープ博士(スタンフォード大学)とも議論を深めて、出版にこぎつけたのです。

たくさんの「もしも」を経て……

本書『生命の星の条件を探る』の白眉でもある「海惑星と陸惑星」(第5章)の考察につながることになるこの研究は、科学者阿部豊の資質をよく表していると思います。

それは、「もしも」「もしも」とたくさんの可能性を想像し想定しながら、大胆な問題を設定し、理論や数値実験の緻密な分析など科学的なエビデンスを積み上げていきながら問題を丁寧に解いてゆくというアプローチです。

本書は、まず最初に、地球のように生命が存在する惑星は、地球のほかにもある、という言葉から始まります。これは「そうであるに違いない」という彼の「信念」からきているものです。言い換えれば思い込みにすぎません。まだ地球に近い条件の星が見つかったわけでもありません。しかし、それが必ず近い将来見つかるに違いない、だからこそ、今から科学の準備をしておかなくてはいけない。では生命が存在する惑星の条件とはどのようなものだろう、ということをひとつひとつ検討していくのです。

それは惑星の気候分布であり、水分布や状態であり、あるいは、安定した二酸化炭素の供給を可能にする、地殻がマントルによって動いていくプレートテクトニクスであり、そして生物の材料物質となる「リン」の供給元としての陸地の存在であったりします。

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