《プロに聞く!人事労務Q&A》賃金の引き下げを伴う出向命令を出すことは可能ですか?

《プロに聞く!人事労務Q&A》賃金の引き下げを伴う出向命令を出すことは可能ですか?

質問

生産部門の作業員として採用した労働者を、事業縮小のために、関連会社(子会社)に営業担当として、出向(在籍出向)させたいと思います。出向先での賃金は、現在の支給額より1割程度の減額になります。何か問題がありますか。なお、当社の就業規則には、出向命令ができる旨の記載があります。(メーカー・人事部長)

回答
回答者:半沢社会保険労務士事務所 半沢公一

民法では雇用契約について「一身専属性」を規定し、「使用者が労務の提供を受ける権利を、その労働者の承諾を得ないで、他の使用者に譲渡することができない(同法第625条)」としています。

また、労働基準法では、各事業において、本法各条の義務について実質的に一定の権限を与えられているか否かによって決定され、出向元、出向先につきそれぞれ労働契約が存する限度で本法の適用がある」とされています(昭和22年9月13日発基第17号、昭和61年6月6日基発第333号)。

就業規則の適用については、一般的にいえば、労務の提供が出向先に対してなされていますので、労務の提供に関する事項については、現実の指揮監督権を有する出向先の就業規則が適用となり、それ以外の基本的な労働者の地位に関する事項については、出向元の就業規則がそのまま継続して適用になると考えられます。

具体的には、始業、終業の時刻などの労働時間関係、休憩、休日、休暇、服務規律、安全・衛生に関する事項などは、出向先の就業規則によることになり、解雇、退職、人事異動などのいわば従業員としての地位に関する身分上の事項については、出向元の就業規則が適用されることになるでしょう。

そして、労働契約法では、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。」と規定されています(同法第14条)。

このようなことから、労働契約の当事者が変更になるような出向は、基本的には労働者の同意が必要になるとされます。今回のご質問のように、親会社から子会社へ出向する場合には、ある程度の労働条件の低下は予測できるところです。

つまり、出向に同意するということは、単に労務の提供に対する指揮命令の主体の変更に同意するということだけでなく、出向先での労働条件の変化についても同意すると考えるのが自然です。

さて、出向に同意するということは、労働条件が低下する出向でも、出向者はそれを受け入れなければならないのかという問題があります。この点については、軽微な労働条件の変更ならともかく、今回のケースのように、賃金が1割もダウンするような出向の場合などは、就業規則に出向に関する記載(出向元の就業規則の包括的同意)があったとしても、労働条件の変更(低下)の同意まで含まれているという解釈は困難ではないでしょうか。

大幅な労働条件の低下が明らかな出向命令は、従業員に著しい不利益を与え、権利の濫用であるとして無効となる可能性があります。よって、会社の対応としては、当該出向によって生ずる不利益について何らかの補填措置をとることにより、従業員の不利益性の解消に努め、出向を円滑に進める必要があると考えます。

 

半沢公一(はんざわ・こういち)
1980年東洋大学経済学部卒業。IT関連会社で営業、人事労務及び派遣実務に従事した後、91年に独立し半沢社会保険労務士事務所を開設。就業規則をベースとした労務相談を得意とする。企業や団体での講演・講義も多い。現在、東京労働局紛争調整委員会あっせん委員、東京都社会保険労務士会理事等を務めている。著書多数。


(東洋経済HRオンライン編集部)

 

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