世界の工作機械メーカーは今後4分の1に収斂される、開発技術だけで製品バリューが決まる時代は終わった--森雅彦・森精機製作所社長

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--これまで、工作機械業界は特殊技術に特化した中小企業、いわゆる「ニッチトップメーカー」がすみ分けており、そのことが顧客の利便性につながっていると言われてきました。

これまでは、開発技術が製品バリューの大半を決めていた。だから、ニッチトップメーカーがたくさん必要でした。だが近年は、多軸制御の機械が滑らかに動くことが当たり前になりつつあります。同時5軸制御やレーザー加工、超音波加工などの技術が進んでおり、かつ、それら技術を滑らかにコントロールできるようになってきました。ニッチな加工や技術が、いわゆる汎用的な、汎用的で緻密で頑丈な同時5軸制御の機械で実現できるようになってきたのです。

だから、これからの製品バリューを決めるのは技術だけではない。いかに早くきれいに緻密に削れるか、お客さんと一緒になって工程を作り込むアプリケーション技術や、条件を改善改良したり、サポートしたり、お客さんの従業員の教育を請け負ったりするサービスに価値が移っていきます。技術とアプリケーションとサービスが、製品バリューの3分の1ずつを構成することになるのです。

--以前のインタビューで、今後はユーザー側のエンジニア教育にも力を入れたいとおっしゃっていました。つまり、サービスの強化ですね。

そうです。それは徹底的にやっています。昔からいい会社とか組織には学校の要素があって、人が育つ。これからの工作機械メーカーには(教育機能が)ますます必要とされると思いますね。

従業員にも、学んでいく姿勢やスタイルが必要です。それがない人は、これからの世の中では振り落とされ、成功の可能性が少なくなっていく。学ぶということはものすごく重要な要素でしょうね。

--社内で工夫されていることはありますか。

もちろん、人のローテーション、社内教育、適性に合った配置などを心掛けています。どれも当たり前のことですが、意外とやっていない会社も多いのかもしれません。

■日本円での評価よりも各通貨の収支バランスをとることが大切

--目先の話に戻りますが、直近の円高への対応策をお聞かせください。

現在は円高であり、強かったはずのユーロが弱くなったりもしている。イタリアやスペインの国債利回りが7%になっているということは、日本も必ず2年後、3年後にそうなるということです。世界同時に処理するわけにはいかないから、まずヨーロッパの処理をしようということですね。だから日本も必ずそうなる。たまたま今イタリアで起きているのです。イタリアで起きていることをよく見ておかないといけません。

いずれにせよ、為替は上がったり下がったりするものです。対応するための方法は2つしかない。第一に、日本だけで食っていけるように、思い切り会社をダウンサイジングしてしまうこと。ただ、そうすると200人くらいの従業員しか雇用できません。当社は日本だけでも3500人、連結で4000人以上の社員がいるので、この選択肢をとることは非常に難しいです。

となると、今の人員を維持し、お客さんに迷惑をかけずやっていくためには、各地で機械を作り、ユーロならユーロの入金と出金、円なら円の入金と出金、ドルならドルの入金と出金で、各通貨のバランスをとる体制を構築することが必要です。ヨーロッパならDMGの工場をフル活用し、DMGはDMGで森精機の日本とアメリカの工場を活用する。日本、アメリカ、ヨーロッパ、DMGの上海工場。これらをうまく活用してバランスをとっていくしか方法がないですね。

購買においても、中国の鋳物を利用したり、ヨーロッパの計測器を買ってきたりして、全体の通貨のバランスをとっていくことが必要だと思います。

日本の上場会社としては、期末時点で日本円の評価をしなければならないので、円の強い弱いで利益額に上下が出てしまいます。だが、そんなことよりも、各通貨での収支のバランスがとれるようにすることが、私の今の課題です。

--課題解決は何%くらい進んでいますか。

たとえば日本では、1年間でDMGの機械を500台売ることになりました。生産に関しては15%くらい進んできたかな、という感じです。購買に関しては10%くらいでしょうか。3年くらい経つと、相当にバランスがとれていくと思います。そして5年後には、為替がどれだけ変動しても、利益額の増減を気にしなくていいような体制に持っていけるんじゃないか、と思います。

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