東芝不正会計に潜む「西田流辣腕」の功罪 「縮み上がるような目標を要求してきた」

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同社による不正会計はインフラ事業、テレビ事業、半導体事業などその他の部門にも及んでいるが、部品売却価格の操作によって捻出したPC事業の「利益」は、不正会計による水増し分の3分の1以上を占め、最大の問題になっている。

西田氏は2009年に会長に就任。後任の新社長となった佐々木氏のもと、円高や東日本大震災、さらにPC事業が事業の低迷に直面した同社は、利益水増しを一段と加速させた、と報告書は述べている。これについて佐々木氏はロイターからの取材要請には応じていない。

佐々木氏はしばしば前任の西田氏から東芝の業績を改善するよう強い圧力を受けていた、と事情を知る関係者は話す。

東芝の不正会計問題については証券監視委が調査を続けており、関係者によれば、有価証券報告書の虚偽記載として同社に課徴金を科すよう金融庁に勧告する可能性がある。

幻に終わった「経団連会長」

2009年に東芝会長に就任した西田氏は経団連副会長にも指名され、当時、経団連会長だったキヤノンの御手洗冨士夫社長の後任候補の1人にもなった。結局、御手洗氏の後任には米倉弘昌・住友化学会長が就いたが、西田氏は次の会長交代にも意欲を示していたという。

その見方を裏付けるように、西田氏は2013年、田中久雄氏を東芝の社長に押す一方、自らは会長職を手放さなかった。自分の後任だった佐々木氏を副会長とし、事実上、わきに追いやるという動きだった、と関係者は話す。経団連会長ポストには優良大企業の会長か社長が就くのが通例。東芝会長の職にとどまれば、西田氏にはそうした「資格」が残ることになる。

だが、その一方で、西田氏と佐々木氏の軋轢(あつれき)は深まっていた。2013年のある記者会見で、両氏の対立が表沙汰になった。東芝の新しい社長となった田中氏のお披露目会見で、西田氏は「利益水準はグローバルレベルからすると低い」と佐々木氏の社長としての経営手腕を批判、これに対し佐々木氏も、記者団に「ちゃんと数字を出しているので文句を言われる筋合いはない」と反論する一幕があった。

しかし、皮肉にも、こうした西田氏の動きが経団連会長ポストへの道を閉ざしてしまった、と周囲の関係者はみる。「財界総理」として日本の経済界を代表し、政治家とも連携する立場になるには、威厳も適性も欠いている、との見方だ。

「出る杭は打たれるということわざ通り、西田氏はあまりに派手に動きすぎてしまったのだろう」とある関係者は振り返った。また、東芝の大物OBは「西田さんが東芝のトップになったのは彼のアグレッシブさがあったからだが、それがその後の問題発生の要因になったことは否定できない」と指摘している。

過度な「利益至上主義」の背景として指摘される西田氏の経営姿勢とともに、会社ぐるみの不正会計を防げなかった東芝のガバナンスのあり方も強い批判にさらされている。9月下旬の新経営体制は、西田氏に代わって東芝の裏舞台で存在感を増す西室相談役の強い影響力で発足するが、再発防止の仕組みをどこまで構築できるかが問われている。

 

(ネイサン・レイン、安藤律子 取材協力:村井令二、浜田健太郎、浦中大我、竹中清 翻訳編集:加藤京子、北松克朗)

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