東芝不正会計に潜む「西田流辣腕」の功罪 「縮み上がるような目標を要求してきた」

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利益操作の手段として、同社内に広がっていたのは「押し込み」と呼ばれる行為だ。製造外注先に部品を販売する際、必要以上の数量を不当に高い「マスキング価格」で押しつける手法で、その水増し分により、見かけ上の利益をかさ上げできる。

第三者委によると、当時の西田社長から厳しい収益目標の実現を迫られたPC部門は、「押し込み」を実行せざるを得ない状況に追い込まれていた。同委の聞き取りの中で、西田氏は同部門の利益改善は部品調達先との価格交渉の結果であると答え、「押し込み」だったとの認識を否定。これに対し、同委は西田氏がそれを許容していたとは断定していないものの、同事業を熟知していた同氏の立場や同社内部から得た情報を踏まえ、西田氏の説明は「合理的とは言えない」と疑義を示している。

しかし、なぜ西田氏がそれほど厳しく財務目標の達成を追い求め、佐々木、田中両氏がそれを引き継いだのか、294ページに上る同委の報告書にはほとんど記されていない。

ロイターは10人を超える西田氏の知人らに取材を行い、さらに同氏との過去のインタビューや決算報告などから、その背景を探った。そこから浮かんできたのは、企業トップとして名声を高め、「財界総理」とも呼ばれる経済団体連合会の会長を射止めようとした野心に満ちた経営者の姿だった。

「西田氏は強い意志を持ち、積極的な人物だ。偉大な実業家とみなされたがっていたし、経団連トップの座を望んでいた」と旧知の間柄にある人物は語った。

これについて西田氏は、ロイターへのコメントを拒否。同社広報も、西田氏への取材要請に応じていない。

土光敏夫氏との出会い

西田氏は1970年に東京大学大学院・法学政治学研究科の修士課程を修了した。欧州の哲学者・数学者であるエトムント・フッサールの超越論的観念論を研究し、共に学んでいたイラン人女性と結婚後、テヘランに渡った。そして、西田氏は東芝の現地事務所の社員として採用される。

イランに東芝の現地法人を設立することを決めたのは、1965年から東芝の社長を務めていた土光敏夫氏。後に経団連会長としても活躍し、旧国鉄の民営化や政府による複数の改革に携わった土光氏の存在は西田氏に強い影響を及ぼした。土光氏がそうであったように、西田もまた政界など幅広く影響力を持つ大物経営者を目指した、と周囲は言う。

元東芝社長で、現日本郵政社長の西室泰三氏(東芝相談役)によれば、野心的な業績目標を掲げることを「チャレンジ」と呼び、東芝の経営に持ち込んだのも土光氏だった。

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