患者負担を別の患者に回す「受診時定額負担」の迷走

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外来患者が負担肩代わり

高額療養費制度の改善自体に反対する声はない。その反面、最大の難題となっているのが同制度の改善に多額の財源(給付費総額で約3600億円)が必要であることだ。

通常であれば、保険料率の引き上げや税の投入によって賄われるが、健康保険組合連合会や市町村などの保険者、財務省の同意取り付けが困難であると政府は判断。代わりに外来通院する患者に負担させるという、これまでにない仕組みを提案した。

受診時定額負担の提案には伏線があった。菅政権の「社会保障改革に関する集中検討会議」で幹事委員を務めた吉川洋・東京大学大学院経済学研究科教授が、検討会議の第1回会合(11年2月5日)で「医療保険の場合、ビッグリスクをみんなできちんと支え合う一方、中所得以上の人はスモールリスクを自助努力で賄うというのも一つの考え方だ」と指摘。

吉川氏の提案が下敷きになって、高額療養費制度の改善と受診時定額負担の導入が一体として打ち出されることになった。

「ビッグリスクに対応する高額療養費制度こそ、公的医療保険の最大の柱であり、限られた財源は同制度の改善に向けられるべき。その際に税財源は年金、介護、生活保護など医療以外にも使わなければならず、税だけでは足りないから患者さんにも一定の役割を果たしていただこう、というのが提案の趣旨だ」と吉川氏は説明する。

ここでの争点は、制度改革の財源を患者に負担させることに合理性があるのか、高価な医薬品の使用拡大などで増え続ける高額療養費の財源をどのように賄うべきなのかだ。

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