世界同時株安で日本株の「優位性」は吹っ飛ぶ 世界的な株安連鎖が止まらない

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長期資金を運用する投資家の日本株に対する評価が大きく崩れたわけではないようだ。実際、日経平均は朝の売りが一巡した後、1万9000円を一時回復する場面があった。市場では「国内、海外の長期資金が押し目買いを入れた」(大手証券トレーダー)との声が出ている。

「1ドル120円をキープできれば、今期2ケタの増益は十分期待できる。ROEが改善していることも株高材料。ROEが2割上昇すれば、単純計算で株価も2割上昇する。数年後には日経平均で2万3000円─2万5000円が視界に入る」とニッセイ基礎研究所チーフ株式ストラテジストの井出真吾氏は強気だ。

日本株の相対的な株高は、市場の期待感の裏返しでもある。4─6月期の日本上場企業の業績は23.7%営業増益(みずほ証券リサーチ&コンサルティング調べ、東証1部、金融除く)と好調だった。一方、米S&P500企業はトムソン・ロイター調べで1.2%の増益と、相対的な日本企業の業績好調ぶりが目立つ。

エコノミストからは、「世界経済のドライバーは依然として米国であり、仮に中国経済が少々減速した場合でも、日本経済に与える悪影響は限定的」(大和総研チーフエコノミストの熊谷亮丸氏)との指摘も聞かれる。パニック的な売りが一巡すれば、日本株の「優位性」が再び脚光を浴びる可能性もある。

中国次第の展開は続く

ただ、「日本株は中国次第の展開が続く」(メリルリンチ日本証券チーフ日本株ストラテジストの阿部健児氏)との見方も多い。中国の実体経済からの影響だけでなく、リスクオフの円高が1ドル120円を超えて一段と進めば、期待値の高い市場の増益シナリオに影を落とすためだ。

市場は株安を通じて、小手先の株価対策ではなく、金融緩和やいわゆる「真水」をともなった財政政策を中国政府に「催促」している。リーマン・ショック後の4兆元の財政出動が、過剰設備など現在の中国が抱える問題の間接的要因になっているとの見方もあるが、市場のパニック売りを止めるには「サプライズ」が必要かもしれない。

いわゆる金融相場(流動性相場)は、市場のセンチメントが相場展開を大きく左右する。金融緩和と緩やかな景気回復を背景としているだけに、「緩やか」な景気回復が「弱い」景気回復と読み換えられてしまえば、市場心理は今回のように、たやすくリスクオフに傾いてしまう。

ファンダメンタルズ的に日本株が相対的な優位性を保っているとしても、大部分が政策に依存していることにも注意が必要だろう。国内年金が株を買い増し、中央銀行も株(ETF)を購入しているという需給面に加え、企業業績が好調なのも円安効果が大きい。日本株の「優位性」が寄って立つ地盤は盤石とは言えず、日本の経済や企業が自律的な成長軌道に乗るまでは、ボラタイルな相場が続きそうだ。

(伊賀大記 編集:石田仁志)

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