カダフィへの復讐は正しい選択だったのか--イアン・ブルマ 米バード大学教授/ジャーナリスト

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ポーランドの民主主義活動家で思想家のアダム・ミフニク氏は、このことをよく理解している。彼は、1980年代に同国で共産党独裁の打倒に尽力した英雄の一人だ。ほかのポーランド人たちが共産党の指導者と共犯者に復讐に満ちた乱暴な正義を求めたのに対し、ミフニク氏は以前の抑圧者とさえ交渉し、妥協し、和解するように忠告した。「危害を受けた者への償いは新たな危害を生み、しかも以前よりも残酷になることが多い」と彼は述べている。

これが、カダフィに対する集団リンチがリビアにとって危険な前兆である理由だ。生きたまま引き渡されて、法廷で裁かれたほうがずっとよかったのだ。

ただし、リビアでの刑事裁判は困難だったかもしれない。42年間の独裁政治は、公平な法廷を作るのに必要な学びと経験を得る機会を奪った。また犠牲者たちが偏見なしに元独裁者を裁くことはおそらく不可能である。だからこそハーグ国際刑事裁判所が設立されたのだ。

カダフィ大佐を裁判にかけても、すべてのリビア人の不公平感を満足させることはなかっただろう。だが、法の支配に対するリビア人の敬意を強める助けにはなったかもしれない。大佐の息子、セイフ・アルイスラム氏の裁判がおそらくこうした効果を持つだろう。もしそうであれば、ハーグで裁判を受けることが、同氏が自分の国のためにできる最善の貢献になる。

Ian Buruma
1951年オランダ生まれ。70~75年にライデン大学で中国文学を、75~77年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

(週刊東洋経済2011年11月26日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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