新幹線車内を"広く"感じさせる「錯覚」の力 デザインに隠されたこれだけの秘密

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東京~新大阪間の運賃と特急料金は合計1万3620円(自由席、繁忙期)。それに5610円追加することで乗れるのがグリーン車だ。物理的な室内空間の広さは普通車と変わらないが、普通車と一線を画す空間となっている。もちろん座席の数が普通車より1つ少なく、その分ゆったりと座れるわけだが、それだけが理由とは思えない“落ち着き”を感じる。いったいなぜなのだろうか。

 福田哲夫氏

「いくつか理由は挙げられますが、なかでもカギとなるのが、光と音、そして風です」(福田氏)

まず、目に見えて普通車との違いを演出するのが“光”だ。ビジネスパーソンに限らず、家族連れ、観光客など客層が幅広い普通車では快活さを演出するべく照明の色温度が高めに設定されており、一方でグリーン車の照明は色温度が低い。色温度の詳細な説明は割愛するが、要するにグリーン車では暖色系オレンジ色っぽい照明となっている。その照明にあわせて、シートや壁の色との組み合わせで落ち着きが演出されている。

700系のグリーン車、N700系全車の天井の照明はアーチ形状になっているのだが、その部分の深さをどれくらいに感じるだろうか。実際には10センチほどの深さしかない。人は経験から、アーチ型を見るとある程度の深さがあると想定してしまう。さらに間接照明によって光のグラデーションがかかっているので、より深く感じる。

300系、700系、N700系、N700Aと高速化するに伴い天井は低くなっているのだが、このアーチ型の照明が実際よりも高く感じさせている。アーチを深く見せることで高くみせているわけだ。

次に“音”である。ここまで述べたような見かけ上の演出によって、静かな雰囲気を出しているのもあるが、そもそも音が出ないように、さまざまな配慮がされている。

まず、床に敷かれたパイル状のカーペットが歩く際の足音を吸収する。普通車であっても足音が気になる人は多くはないだろうが、グリーン車はそのわずかな足音にも気を配っている。通路を行き交う人の足音もそうだが、自らが歩く足音すら消してしまう。人は、こうした細かな差に対して想像以上に敏感だ。その差を無意識のうちに感じ取って、静寂を認識し、そこに「落ち着き」を感じる。

N700Aの座席のシートを覆うモケットと呼ばれる布地も、普通車ではこれまでのものよりコシがある糸を使い、タッチや風合いがより良く進化している。また、グリーン車においてはさらにモケットの表面積が多く、それも車内で発生する音を吸収する役目も担っている。

矛盾する関係を解決していく作業

日本を代表する路線の車両を多く手がけてきた福田氏だが、それはすなわち多様な状況に置かれた人々が乗る車両を手がけてきたということでもあり、さまざまな葛藤があったという。

ビジネスパーソンの乗客が多くを占める東海道新幹線ではあるが、それでもビジネス用の路線と割り切ることはできないし、かといってリゾート列車とは明らかに違う。福田氏は言う。

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