世界はシリコンバレーを中心に動いている ヘタをすると既存産業は惨敗してしまう

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山田:アップルは実際に、「タイタン」プロジェクトを立ち上げていますね。「本当に自動車を作るのか」という驚きがあります。

伊佐山:自前といっても人材を引っこ抜くわけですね。たとえばテスラの人もかなりアップルに転籍しています。だから、自動車を作ろうというのは本気でしょう。既存の自動車メーカーは「200人引っこ抜いたってなにもできないよ」って反論するでしょうが、アップルは現金をいくら持っているか知っていますか。トヨタが買えてしまうくらいのキャッシュを持っているわけです。

山田:何もしなければ、これまでの自前の事業は根こそぎひっくり返ってしまう。

シリコンバレーを支社にしてはダメ

伊佐山:そうです。僕の感覚が間違っているのかもしれませんが、いよいよそういう状況になってきたな、と思っています。

山田:そんなシリコンバレーの最前線を押さえたうえで、仕事をするためにはどうすればいいのでしょうか。

伊佐山:今まではシリコンバレーや米国に拠点を置いたとしても、営業の拠点だった。今やっている日本中心のビジネスを地理的に広げるための拠点だったといえます。つねに従属する立場にあったと思います。

しかし、そうではなく本社機能のうち、新しいビジネスを生み出す拠点にする、という考えが必要です。つまり研究開発目線の進出です。これまでは日本の企業はどんな会社であっても、研究開発はあくまで国内だった。研究開発部門があったとしても、シリコンバレーは支社に過ぎなかった。シリコンバレーからは面白おかしい情報は入ってくるんだけど、実際は本社の人は真剣に相手にしない。

よく言うのですが、本社のほうにはキャッチャーがいない。シリコンバレーに駐在しているいいピッチャーが球を投げまくっても、壁に当たってそこらへんに落ちているだけ。駐在モデルはどうしてもそうなってしまう。そうならないようにするには、R&Dのヘッドクォーターをシリコンバレーに移してもいい、というくらいの考えで進出するべきです。

実際、そういう考えを持つ経営者も出てきている。つまり、社長もシリコンバレーには定期的に行かなきゃいけない。必要になったらシリコンバレーに引っ越したっていい。実際、ソフトバンクの孫さん、楽天の三木谷さん、LIXIL(リクシル)の藤森さん、ソニーの平井さんもシリコンバレーの住民に近い。これからそういう経営者も増えるかなとも思っています。

センスのいい経営者は、「いやもう俺、引っ越すよ」となるのではないかと思います。世界の標準をリードしている地域をもっと、経営で身近に感じることは、これからますます日本企業の課題になると考えていますし、WiLとしてはそういうニーズを取り込んで、活動の幅を広げていきたいと思っています。 

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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