野田首相の安全運転だけでは「乱気流」、季節外れの「台風」の恐れも

野田首相の安全運転だけでは「乱気流」、季節外れの「台風」の恐れも

塩田潮

 今年6月に刊行した拙著『まるわかり政治語事典』(平凡社新書)では、政治の世界の俗語や隠語、新語、流行語、政治家の語録など600の言葉を取り上げたが、野田内閣のいまなら追加して収録したい新しい「政治語」がある。

 野田首相の代名詞の「どじょう」や「演説力」と並んで、もう一つ、「安全運転」も野田流政治を知る手がかりとなる。

 野田首相は9月30日、記者会見で「最初から乱暴なスピード違反はできない。安全運転で」と述べた。警察庁交通局監修の小冊子『人にやさしい安全運転』は「安全運転5則」として、(1)安全速度を守る、(2)カーブの手前でスピードを落とす、(3)一時停止で横断歩行者の安全を守る、(4)交差点では必ず安全を確かめる、(5)飲酒運転ノー、を挙げる。

 野田首相の政治手法は「泥臭く汗をかく、ぶれない、低姿勢、融和、チームワーク重視、実行する政治」で、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉参加問題や第3次補正予算も、この姿勢でなんとかメドをつけた。

 だが、TPP問題では、急がずに安全速度を守り、決着期限の11月11日という大カーブの手前ではスピードを落として1日先送り、大枠合意後の日米の発言食い違い問題では、国内の反対派とアメリカの両方をにらんで一時停止、安全確認を欠かさなかった。60キロ制限の道路を30キロで走る車のような慎重な運転だ。

 国際環境、経済、与野党、民主党内の各情勢とも、きわめて厳しい場面での政権担当だから、高望みせず、重心を低くして、安全第一を心がけているようだが、指導力不足の“愚図首相”の感もある。内閣支持率続落は国民の失望の表れと見ることもできる。

 『まるわかり政治語事典』では、政権失速を表す「レームダック」「立ち枯れ」「死に体」などの言葉も紹介したが、失敗と失点と失言を恐れて「挑まず、戦わず、走らず、語らず」の安全運転だけでは、やがて「乱気流」が起こり、政権は季節外れの「台風」に見舞われる恐れがある。

 原点の「演説力」に立ち返り、まずは恐れずに目指す将来像、政策、自身の信条と真情を、熱を込めてもっと雄弁に語ってもらいたい。
(写真:梅谷秀司)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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